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2005年12月11日

「家族」と「国家」

 特定失踪者問題調査会のニュース 315号(17.12.11)に書いたものです。前のものと重複する部分がありますが掲載しておきます。

■「家族」と「国家」
 
 先日来小学生の女の子を狙った凶悪事件が大きな問題になっています。子供を持つ親であれば誰しも「うちの子が被害にあったら」という思いにさいなまれたのではないでしょうか。いわんや栃木の事件はまだ犯人が逮捕されていないのですからなおさらです。

 こういう言い方をすると冷たいと言われるかも知れませんが、事件を防ぐために何もしてあげられなかった者としては、亡くなったお子さんたちにできることは、せめてその現実を受け止め、それを教訓として、次の事件がおきないように努力することしかないように思います。それにしてもあらためて、安全とか平和というのが当然のものではないということが身にしみて実感されます。

 ところで、この事件について「うちの子が被害にあっていたら」と思うのと、他人事と考えて単に「可哀想に」と思うのでは、その後の対応は当然全く異なります。拉致問題についても同様であり、昔、自分にかかわりのないところで起きた事件ととらえるのか、あるいは自分や自分の家族が今後同様の被害に遭う可能性があると考えるのかで、その対処は全く異なってきます。

 残念ながら現在政府は前者の次元で問題を処理しようとしています。これはあくまで個別の事件としての取扱いです。後者は国家の安全保障の問題なのですが、この点は徹底して隠蔽ないし無視し続けているのが現状です。しかし、北朝鮮が国家の基本方針である対南赤化統一を目指して行ってきた工作活動の一環として拉致を行っていることを考えれば、この問題の本質はあくまで後者であって前者ではありません。

 その意味から考えれば政府が「ご家族の意向」と強調することは、裏を返すと個別の事件という側面を強調して国家の安全保障にかかわる問題という側面を隠そうとしている(意識的か無意識かは別として)ことにほかなりません。ご家族が納得すればそれでおしまいということになるわけで、実際9.17のときの政府からご家族への嘘の報告は、まさにそれを狙ったものでした。

 先日横田滋家族会代表が体調を崩され、講演をキャンセルしたとの話を聞きました。ご夫妻とは時折集会などでご一緒しますが、極めてハードなスケジュールをこなし続けておられ、傍で見ていても「お身体が持つのだろうか」という思いをしたことが一度二度ではありません。

 そうは言いながら、私もときにはお願いしてしまうことがあるので偉そうなことは言えませんが、今後集会を企画しておられる方にぜひお願いしたいのは、もっとも要請の集中する横田さんご夫妻をお呼びすることは、可能な限り控えていただきたいということです。また、勝手な話ながら、それ以外のご家族もご両親はどなたも高齢であり、無理はさせられません。例えば増元さんのように年齢的にも立場上もフットワークの良い方は別として、可能な限りのご配慮をお願いしたいと思います。「横田さん夫妻が来なければ人が集まらない」ということであれば、集会の規模を変更するなり、別の企画を入れるなりして対応されるべきではないでしょうか。

 少女殺人事件の被害者のご両親を引張り回して凶悪犯罪を防止しようという訴えをしてもらおうと言ったらどう思われるでしょうか。いわんやことは国家の問題です。北朝鮮という独裁国家による犯罪の被害者の家族であり、また、日本国が守ってあげられなかったという意味では政府の不作為の被害者の家族です。その点をどうかご理解下さい。

 「そうは言っても」という側面があることは承知しています。私自身、今後も、ご家族にお願いすることはあると思います。しかし、この問題は根本的には「家族」次元の問題ではないことを、一人でも多くの方にご理解いただきたく思う次第です。

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