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2006年7月26日

 先日恵隆之介さんの著書『敵兵を救助せよ!ーー英国兵422名を救助した駆逐艦「雷」工藤艦長』を読んだ。
 昭和17年3月1日、ジャワ島北方のスラバヤ沖で行われた海戦で撃沈された英巡洋艦「エクゼター」と同駆逐艦「エンカウンター」の乗組員を危険を冒して救助した駆逐艦「雷(いかづち)」の工藤俊作艦長について書かれたものである。
 恵さんは沖縄出身、防大卒で海上自衛隊に任官した後退官し、現在はビジネススクールの校長をしている。『誰も書かなかった沖縄』(PHP)など、沖縄に関する著書や論文も多い。沖縄では貴重な非左翼の論客である。私はいくつもの縁があり、お世話になっている方である。
 本書は単に「雷」の救助のことだけではなく、工藤艦長の生い立ち、さらにそれ以前の日本の置かれた状況から戦争に入っていく経緯、そして敗戦から今日までの歴史を海軍を軸にして綴っており、基礎知識がない人でも分かりやすい本である。
 私が本書で一番感銘を受けたのは、内容もさることながら、60年以上前のことであるにもかかわらず、全体が未来を向いて書かれていると感じられたことである。もちろん、私自身が今後海上自衛隊に移り護衛艦の艦長になって敵兵を救助することはありえないが、いかなる場においても日本人として恥ずかしくないような行動をしようという気になる本なのだ。また、歴史が決して断絶していないことも教えてくれる。
 よく、「こんな憲法ではどうしようもない」「まともな情報機関がないようでは」「マスコミが…」などの愚痴を聞かされるが、そんな暇があったら、自分の扱っている分野で現実を変える努力をすべきだろう。工藤艦長が、敵潜水艦からの攻撃を受けることを覚悟してまで捕虜を救ったことから考えれば、愚痴をこぼしていることがいかに恥ずかしいことか分かると思う。
 もう一つ、こちらは小説だが、最近読んだものに『マルタの碑』(秋月達郎著・祥伝社文庫)というのがある。第一次大戦当時地中海に派遣された海軍特務艦隊の話で、山口多聞や小沢治三郎ら実在の人物も登場する。自分には確認できないが、全体の流れはほぼ史実に基づいていると思われる。危険を冒して地中海の船団護衛を行う姿はなかなか感動的である。
 戦前の日本の歴史が侵略の歴史ではなく、植民地主義の排除、アジアを初めとする非白人国家解放の歴史であったと考える人は、「そうだった。しかし、今はだめだ」で留まるべきではなく、「だから、今どんなことがあっても時代を変えていこう」と考え、行動すべきだろう。ついでに言えば、侵略の歴史だと思っている人も「だから、もう何もしないようにしよう」とは思わずに「だから、贖罪のためにも北朝鮮の独裁政権を倒して民衆を救おう。中国を民主化しよう」と思うべきだろう。どっちにしても、前に向かう気が必要だということだ。
 そんなところまで飛躍しなくても恵さんの本は十分に読む価値があります。ご一読下さい。

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