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2006年9月 3日

吹上浜

 吹上浜というのは、市川修一さんと増元るみ子さんが拉致されたと言われる場所である。
 別に最近行った話ではない。かつてここには鹿児島交通の鉄道線、通称南薩線と呼ばれていたローカル線が走っていた。鹿児島本線の伊集院から指宿枕崎線の枕崎まで約50キロ、長大な路線だったが、旅客減に水害が加わり昭和59年に廃止されている。
 私はここに訪れたことがある。8ミリ(ビデオではなく、昔のムービー)で記録したことも覚えているのだが、その8ミリフィルムも見つからず、何時行ったのかの記録も残していない。したがってはっきりしないのだが、おそらく昭和51,2年だろうと思う。
 南薩線は比較的海岸近くを走るのだが、その割に、覚えている限りでは車窓からほとんど海は見えなかった。その、数少ない、ちょっと開けたところが薩摩湖という駅のあたりだったと記憶している。市川さんと増元さんが拉致される直前に写真をとったのも薩摩湖だった。
 このとき、確か車窓から8ミリで海を写したような気がする。あるいは記憶違いかも知れないが、少なくとも、そういう気になるほど、なぜか光景が目に焼き付いているのである。そして、私が南薩線の車窓から海を見た後1、2年後に、そのあたりから市川さんと増元さんが拉致をされた。さらに、それから20年余り経って、私は拉致の救出運動に関わることになる。不思議な因縁と言えるかも知れない。
 調査会の活動をやるようになってから、日本中どこに行っても「ここで○○さんが失踪したんだな」とか、「□□さんはここに車を置いていなくなったんだな」と思うようになってしまった。そしてそう考えるとすべての風景が違って見えてしまう。
 2両編成のディーゼルカーに揺られて8ミリを回しながら私が旅を楽しんでいた場所で拉致が起き、若い2人がその後の人生を目茶苦茶にされてしまった。罪悪感を感じるなどと言うとかえって安っぽい言い方になるだろうが、今でもあの車窓から見えた海が目に浮かび、複雑な思いに浸るときがある。
 

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