2人の指導員
以下は「調査会NEWS」 461号(19.1.12)で発信したものです。
昨日、「蓮池薫さんの拉致に関して北朝鮮対外情報調査部の指導員2人が拉致の実行を指示していたことが警察当局の調べで分かった」との報道がありました。
このニュースを聞いて最初に思ったことは、「何でこんな話が今頃出てきたのだろう?」という素朴な疑問です。この話が事実だった場合、警察が北朝鮮に行ってその指導員や、蓮池さんにそう語った現場を目撃した人に事情聴取したわけではありません。従ってこの報道の元ネタは蓮池薫さんがそう言った以外に考えられません。彼は「すでに政府には全部話した」と、はるか昔から言ってきました。そうすると、警察はこのことを知っていて今まで隠していたことになります。あるいは、今ごろになって蓮池さんはこんなことを思い出したのでしょうか。
また、この報道では、拉致の標的は祐木子さんであり、蓮池さんは一緒にいたので、ついでに拉致してきたということになっています。だとすると祐木子さんは北朝鮮で女性工作員の日本人化教育を担当していたことになります。担当していた工作員は金賢姫以外のまだ名前が出ていない人でしょう。ならば北朝鮮はなぜそんな人を返したのでしょうか。
北朝鮮が死んだとしている拉致被害者は大部分が工作機関の中で目撃されていたり、工作員が捕まって自白した人です。北朝鮮が帰国させる人間を選ぶ中で、拉致が国家目的に基づく行為であるという証明になる人間は皆死んだことにしてしまっているのです。それでも返した人はほとんど重要な工作活動に関与していないか、していたとしても絶対にしゃべらないと北朝鮮側が信頼(それはいわゆる「信頼」ではなく、しゃべれないだけの条件を作ったということ)した人なのではないでしょうか。帰国当時、私は救う会の事務局長で蓮池さんとともに柏崎に行き、蓮池さんの実家に泊めていただきました。そのときの感触では、蓮池薫さんはともかく、祐木子さんがその種の機密事項を抱え込んでいるようには見えませんでした(もちろん、話していないことは色々あるはずですが)。
調査会のマッピングリストを見ていただいて分かるように、アベックないし夫婦での拉致・失踪はその大部分が1970年代に起きています。これは明らかに当時の北朝鮮には男女で連れてくるという方針があったということです。それはおそらく2人で連れてくれば精神的に安定し、いうことを聞くだろうと思っていたからでしょう。仮に行き当たりばったりの拉致だった(そんなことは有り得ませんが)とすれば、わざわざ2人分の装備を準備してやるなどということはないはずです。したがって、祐木子さんを連れて行こうとしたときにたまたま蓮池薫さんがいたということは有り得ません。さらに言えば、女性の工作員は相対的に数が少ないのですから、工作員の日本人化のために拉致をするなら、その数も当然男性の方が多いはずです。女性だけをねらったというのもやはり辻褄が合いません。
非常にひねくれた見方かも知れませんが、私にはこの発表が、昨年末の「週刊現代」の記事を否定するために出されたものではないかという疑念が消えません。一部報道機関には「今後、拉致の指揮命令系統の捜査が進むほど、金正日総書記の『(拉致は)特殊機関の一部が妄動主義に走った』との説明を突き崩すことにつながる」との見方もあるようですが、拉致が国家目的で行われたことは、指揮命令系統の捜査などしなくても明らかなことであり、逆にそんなことを突きつけたところで北朝鮮が「参りました」というはずはありません。重要な進展のように思われる人もいるかも知れませんが、私にはどうでも良いこと(と、言ったら言い過ぎでしょうか)とすら思えるのです。あるいはこの発表には、もっと重要なことを隠さなければならないという、別の意図があるのでしょうか。
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