北朝鮮の「誠意」
以下は調査会NEWS 480(19.3.7)に書いたものです。
想像された通りに日朝の作業部会は終わりました。
日本政府は今後も北朝鮮の「誠意」ある対応を求めていくそうです。
6者協議の合意後、2月16日に家族会などへの報告の中で、団長であった佐々江外務省アジア大洋州局長は「両国間の懸案事項とは拉致問題のことを言い、北朝鮮もそう認識している」と言っていました。しかし少なくとも今回の作業部会で北朝鮮側は「拉致は解決済み」を繰り返しました。そして過去の問題を持ち出して目くらましを図ろうとしています。この調子だと日韓併合に関わる問題が根拠がないとされれば次は文禄・慶長の役、その次は白村江の戦いや神功皇后の三韓征伐でも持ち出してくるかも知れません。
これに対して日本政府は米中などと連携を強めて北朝鮮に誠意ある対応を求める方針のようです。この方針は2つの点で誤っています。まず、米中はすでに半ば手打ちを済ませていること(日本のやり方によっては間を裂くことは可能でしょうが)。核拡散さえしなければ基本的に北朝鮮が核を持つことを容認し、一方でこれがきっかけになって日本が独自の核抑止力を持つことは防ごうとしています。日本が援助を「しやすい」ようにするために若干の働きかけ程度はするかも知れませんが、それ以上のことを期待するのは無理があります。
そして言うまでもなく、北朝鮮当局に「誠意」はありません。見せろといわれてもないものはないのだから仕方ありません。誠意があるくらいなら拉致などしないでしょう。
この合意は、どうせどこかでご破算になるでしょう。しかし、いずれにしても6者協議はあくまで外堀を埋めて北朝鮮を追い詰めるためのもので、拉致問題の解決は日朝の、それも話し合いではなく力(経済制裁のみならず軍事的圧力や情報戦も含め)によって金正日体制を変えていくことしか解決の道はありません。
何度も言っているように、これは日本人拉致被害者の救出だけの問題ではありません。拉致被害者のみならず在日朝鮮人帰国者・日本人妻や一般の北朝鮮の人々の人権擁護、もっとはっきり言えば飢えや弾圧で殺されていくのを止めるために絶対に必要なことです。もちろん、核問題についても同様です。
6者協議の合意は北朝鮮の体制保障を前提としています。これがある限りあの体制のもとで死んでいく人はあとを立たないでしょう。政府は昨年あたりから「生存している拉致被害者全員の帰還」という言葉を使っていますが、今日生きている人が明日も生きているという保証はないのです。それとも、時間をかけていれば皆死んでしまって、取り返す必要がなくなるとでも思っているのでしょうか。
ともかく、これらのことは官僚のレベルでは絶対にできません。いくら外交官が優秀で、警察がフルに動いても、政治の決断がなければできることではありません。安倍政権に限らず、数十年の間この国に欠けていたのは政治の決断です。拉致問題の解決には(そして核問題や、おそらくそれ以外の様々な国家の基本的問題解決には)この政治の決断が必要不可欠です。
北朝鮮に誠意を求めるというのは何もしないことの言い訳でしかありません。総理にはもういちど、6者協議の合意は誤りだったという立場に立って、何ができるか、何をしなければならないかを考え、実行していただきたいと思います。
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