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2007年6月13日

 お役所は過ちを犯さない

 お役所は過ちを犯さないーー

 これがお役所の原則である。かつて特定失踪者の問題である官僚と議論をしていたとき、真鍋貞樹・調査会専務理事が「もうこういうトラブルはないようにしましょうよ」と言ったら、相手が怒りをあらわにしたことがあった。「トラブルはお前に責任がある」というのではない。「トラブルは存在しないのに存在したかのように言っている」ということである(もちろん、直接こんな言葉を発したのではない。あくまでそういうニュアンスとしてこちらが受け止めたのだが)。

 この人はそれほど悪い人ではなく(悪ければもっとうまく立ち回っているはずだ)、正直だったからこのような反応になったのだろうが「官僚機構は過ちを犯さない」というのが、日本全体、官僚機構の原則であることは間違いない。減点主義の社会だから、トラブルが起きたということ自体がその人にとってのマイナスになる、したがって、トラブルは存在しないことにしようとする習性がつねにお役所にはつきまとう。

 「そう言われても、社会保険庁の問題とか、様々な過ちが明らかになっているではないか」と言われるだろうが、原則と現実は別物であり、この原則(幻想?)は今も変わってはいない。何度も言っているが、かつてわが国は「無敵の帝国海軍が負けるはずがない。だからミッドウェーの敗北はなかったことにしよう」という、後に国家全体を破滅の危機にさらす過ちを犯している。このときの「なかったことにしよう」というのは一部の独裁者がやったことではなく、海軍兵学校に入って将校になり、さらに試験をかいくぐって海軍大学校と進んだエリート、国民の期待を一身に担う、当時日本で最も優秀な人たちが犯した過ちである。そして陸軍でも、ごく一部は分かっていたらしいが、あれだけ仲が悪かったのに、こういうときは全くと言っていいほどチェックアンドバランスがはたらかなかった。

 敗戦と占領のために日本人の手によって大東亜戦争の意味を再検討することができなかったせいで、このことはその後長く問題にされなかった。しかし、おかげで膨大な犠牲をはらった大東亜戦争からの教訓はまだその大部分が埋もれたままである。

 さて、そんな中で社会保険庁の問題が出てきた。公安調査庁の元長官が代表取締役をつとめる会社が総連本部の土地建物を購入していたとのニュースも流れた。警察の不祥事や自衛隊の情報漏洩、どのニュースにも呆れるばかりだが、これらは個別の役所の問題ではなく、どの役所でも起きていることなのだろう。そして、それを隠してきたのが「お役所は過ちを犯さない」という原則なのである。なお、本来は軍人は公務員ではないが、今の日本ではそういうことになっているし、実際お役所である。

 人間は過ちを犯す。それは民間だろうが、役所だろうが変わらない。そして、だからこそ民主制度というのは効果があるのである。チェックアンドバランスの機能が存在することによってその被害を最小限に留めることができ、また修正することができるのだ。

 私も含めて日本人は、国民一般ですら「お役所は過ちを犯さない」という幻想を持っている。その点は政府を批判する人でも同様で、左右を問わず共通していると言っていい。国家に対する甘えと言えるかもしれない。アメリカ合衆国や中華人民共和国のように、何らかの目的をもって建国したのと異なり、日本は「気づいたらそこにあった」とも言える国である。したがって、主体的に国家に関与しようという意識が薄くなるのではないか。

 国家権力と国民との間には「建設的緊張関係」が必要である。絶対的否定でもなく、絶対的肯定でもあってはいけない。是々非々で、「お役所も民間も、もちろん自分も過ちを犯す」という前提で、お互いがチェック機能を果たすことが必要である。

 さて、拉致問題について、まだ「過ち」はほとんど表に出ていない。おそらく社会保険庁の問題など比べものにならないような過ちが隠されているのだろう。その過ちをチェックするのは国民の仕事である。その点は安倍政権でも小泉政権でも、あるいは次の政権でも同じである。

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