「行動を取るよう求めていく」と「取り返す」の差
以下は12月25日付の調査会NEWS 588号に書いたものです。
「しおかぜの集い」で採択された要請文書にも書かれていますが、11月28日に拉致問題対策本部から受け取った回答書には「政府は、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現すべく最大限努力をしています。10月3日の六者会合成果文書においても、日朝双方が精力的な協議を通じて具体的行動を実施していくことが確認されたところであり、政府としては、北朝鮮自身が拉致問題の解決に向けて具体的な行動を取るよう求めていく考えです」と書かれています。
これは後に掲載した一昨年(平成17年)6月14日の参議院内閣委員会における森ゆうこ議員(民主)と当時の細田官房長官のやりとりを見ても分かります。ある意味政府の姿勢は一貫しているとも言えるでしょう。
しかし、総理(これは小泉総理であれ安倍総理であれ福田総理であれ同じですが)が「拉致問題の解決に全力をあげる」と言ったとき国民、とりわけ認定未認定にかかわらず拉致被害者家族は「拉致被害者を奪還する」(方法は様々あり、その選択はともかくとして)ということだとは思っても、「北朝鮮が拉致被害者を返すまで延々と話し合いを続けていく」とは思っていないはずです。
私はこの内閣委員会のやりとりをたびたび引用していますが、細田官房長官の答弁の「先方も政府で、彼らのこの領土の中においてはあらゆる人に対する権限を持っておりますので、これは我々が説得をして、そして彼らがついに、実は生きておりました、全員返しますと言うまで粘り強く交渉をすることが我々の今の方針でございます」というのはどう考えても納得できるものではありません。私ならずとも常識を持った人であれば誰でもそう思うでしょう。この答弁には逆の意味で細田さんならではの正直さが出ているのかも知れませんが、拉致をした相手に「返していただく」というのはお役所の論理からすれば正しくても国家としての整合性を欠く認識だと思います。
「取り返す」と言うと、時に「憲法の制約」を理由にできないという人がいますが、現行憲法でも第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と第65条「行政権は、内閣に属する」によって拉致被害者を取り返すことは認められるはずですし、そもそも拉致された国民を取り返すなどというのは憲法以前の問題であるはずです。なお、たとえ日本国籍がなくても日本国内から何らかの理由で本人の意思に反して連れて行くなどした場合は主権侵害になるはずです。1973年のいわゆる「金大中拉致事件」はその扱いでした。したがって在日の拉致被害者も取り返すべき存在であることはいうまでもありません。
少なくとも来年はこのことに皆が気づいて、国家として本来行うべきことが当たり前のように行われる日本にしたいものだと思います。
(資料:平成17年6月14日、参議院内閣委員会)
○森ゆうこ君 政府が全く認定していない人たちがいるわけですね。先ほどの特定失踪者問題調査会のリストに挙がっている人はたくさんいらっしゃるわけです。そして、疑いが濃厚になっている人も本当に大勢いらっしゃる。そういう人たちにも帰っていただかないと、これは拉致問題の解決にはつながらないわけです。
外務省が交渉していく場合に、先ほど答弁にもありましたように、やはり認定、きちっとした形でないと要求は突き付けにくいということですから、この認定のやり方、今後変えるべきではないでしょうか、官房長官。
○国務大臣(細田博之君) これは、確かにおっしゃることは分かるわけでございます。
しかし、こういう言わば犯罪の被害者、言わば誘拐ではございますから、その犯罪の被害者として、だれか特定の人が特定の場所でこういう経路でだれが手伝って連れていったと、拉致をしたということをやはり警察当局がしっかりとした証拠固めをして、そして認定をするという仕組みでやっております。
したがって、その限りではどうしてもこの田中実さんを含めて十六名の方、特に、五人の方はお帰りになりましたので、残り十一人の方の問題になるわけでございますが、当然ながら、そのほかに交渉においては、例えばいろんな状況証拠が出てきつつあった加瀬テル子さんとか藤田進さんを始め、そういう話もしておりますし、それからいわゆる特定失踪者の千番台のリストの方々等を合わせますと、救う会の認定も含めますと五十数名の方は極めて容疑が濃いわけでございますけれども、そのうち、そのほかにも百数十名と言われる方が突然の、理由もない失踪をされているということから大変疑惑は深いわけでございますけれども、我々としては、北朝鮮にはっきりとしたものからまず交渉をしております。
はっきりとした証拠のあるものでさえ、その生存を隠し、しかもきちっと、ああ、この方でしたらおられましたと言ってきませんので、これはもう向こうの政府の、極めてこれ遺憾でございますが、こういったことを何とか直させなきゃいけないということは非常に今我々も苦労しておるところでございます。
○森ゆうこ君 申し訳ありませんが、そのような政府の認識、根本的に間違っていると私は思います。
今、犯罪というふうにおっしゃいました。刑事事件として扱っていらっしゃるんですね、一個一個、それぞれ。それで警察が捜査をして、そして証拠がある程度固まったときに政府として認定をしていく、そしてそれを基に外務省が交渉をしていくと、こういうシステムになっているわけですけど、そもそもそれは間違っているんですよ。そうじゃないんです。
拉致問題というのは、個別の刑事事件じゃない、北朝鮮の国家による現在進行形のテロなんです。これが拉致問題なんです。だから、そんな姿勢では絶対解決できません。だから、北朝鮮側は何も、自分たちの都合のいいことを言ってくるだけで誠実に対応しようとしないんです。当然です。日本政府がそのような認識で今までのような態度だったら、何にも答えてこないのは当たり前じゃないですか。
これから救出に向けていつまでに何をするのか、具体的にお答えいただきたいと思います。
○国務大臣(細田博之君) できるだけの努力を今後とも継続したいと思います。
それには交渉のテーブルに着き直すことが大事でございますし、それから別途進められております六か国協議も再開に向かって今協議が進められておりますが、こういったところで直接顔を合わせて、それをきっちりと申し入れるということが今後可能になる可能性が今大きくなっていると思っております。
○森ゆうこ君 政府、我が国政府が、我が国の国民が拉致されて救出を待っているときに、我が国の政府が自分でできる、主体的にできるということを、いつまでに、どのように、何をするのか、具体的にお答えいただきたいという質問なんですが。
○国務大臣(細田博之君) 先方も政府で、彼らのこの領土の中においてはあらゆる人に対する権限を持っておりますので、これは我々が説得をして、そして彼らがついに、実は生きておりました、全員返しますと言うまで粘り強く交渉をすることが我々の今の方針でございます。
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