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2008年5月 6日

救出運動は政府と一体化してはならない

※以下は5月6日発行の調査会NEWS 625に書いたものです。

 「車窓越しや徒歩移動中、見聞きしたことで主席に不安や不快感を抱かせること自体、外交問題化する可能性がある。(胡錦濤主席に)抗議行為や音を一切、見せず、聞かせずの警備が行われる」

 今回の胡主席訪日に対する警察の警備方針はこのようなものだそうです。

 確かに、警察という官庁の整合性から言えば警備の目標はそういうことでしょう。しかし、それが多くの国民の思いと一致しているかといえば、否とせざるを得ません。

 毒餃子、チベット、長野での騒乱…。それらを目の当たりにして、胡錦濤総書記が来日するなら抗議の意志を表したいというのがごく普通の常識ではないでしょうか。しかし、警備の担当者からすれば、至上命題は「何も問題が起きないこと」でしかありません。それが官僚機構というものです。だからこそ長野でも暴行をはたらいた中国人は一切検挙されず、日本人やチベット人だけが制圧されるのです。警察の整合性は保たれても、自由民主主義国家日本としての整合性は損なわれるということです。

 さて、現在救う会全国協議会では各地で政府・拉致議連と共催の大規模集会を計画しています。たびたび「政府・議連と救う会が一体となって」という言葉も聞こえます。しかし、この「政府と一体」というのは本当に望ましいことなのか、逆に救出運動を停滞させ、拉致問題の棚上げを促進するのではないでしょうか。

 ある地域で計画されている大集会で、開催日を決める時点から私に出席が要請されていた集会がありました。しかし、最近になって地元から荒木の出席を取り消したい旨連絡がありました。中山恭子・首相補佐官及び佐藤勝巳・救う会全国協議会会長の意向とのことでした。私が行けば政府の批判をするので政府と共催の集会にはふさわしくないからということでしょう。その一方で中山補佐官は集会に参加した折、その地域の特定失踪者の家族と懇談の場を持ちたいとの意向を示しています。悪意で解釈すれば、これは政府批判を封じ、調査会と失踪者家族を分断し、家族をなだめることを目的としているともとれないことはありません。

 この問題が長い間解決しない責任のかなりの部分は日本政府にあります。長期に渡り(そして今も)政府が拉致事件の本質を隠蔽し、本当の意味での救出への努力を怠ってきたからこそ拉致問題は今に至っても解決していないのです。それについて、日本政府は只の一度も反省したことも、謝罪したこともありません。政府首脳であれ官僚であれ口を開けば「全力を尽くしてやっている」と言いますが、それが虚言であることは火を見るよりも明らかです。日本政府が本当に全力を尽くしてやれば、この国の底力からして、北朝鮮から情報を得て拉致被害者を特定し少なくとも何人かを取り返して来ることはさほど難しいことではありません。

 しかし昨年10月末、調査会の出した要請文書の中にあるように、政府の方針は「北朝鮮自身が拉致問題の解決に向けて具体的な行動を取るよう求めていく」ことだけであり、「政府の責任として拉致被害者を取り返す」とは一言も言っていません。それが拉致問題の現状です。それどころか、古川了子さん拉致認定訴訟を通じて政府は「政府認定者と未認定者に差別をつけてはいない」と言いながら、実際にはたとえば政府の北朝鮮向け短波放送「ふるさとの風」でも、こちらからの要請にもかかわらず特定失踪者についてはメッセージの放送どころか名前の読み上げさえしていません。すべての拉致被害者を救出するつもりなどないことは明白です。

 もちろん、政府の中にも、拉致問題の解決のため努力している人が何人もいます。しかし、民間の救出運動が政府と一体化したとき、運動は官僚機構、権力機構の中での整合性に合わせたものになり、内部にいる志ある人々が動くのにはマイナスにしか働きません。民間の運動は政府と一定の距離を保ち、建設的緊張関係の中で、協力すべきことは協力する、批判すべきことは批判するということが必要なのではないかと思います。

 大集会をやるべきでないとは言いません。開催するために各地の救う会では大変な努力をして参加者の動員するわけで、確かに運動を活性化させることにつながるとは思います。その意味で開催地の救う会の皆さんの努力には敬意を表しますが、「政府と一体」という全国協議会の方針は、それ自体がこれまで11年間積み上げてきた運動を後退させるものであり、特に私たちにとっては特定失踪者、未認定拉致被害者の問題を棚上げしてしまうものとして容認できるものではありません。もちろん、そのような流れは政府認定拉致被害者の救出にも明らかにマイナスです。

 4月27日の国民大集会でも申しましたが、拉致問題は官僚には絶対に解決できません。官僚機構というのは多かれ少なかれ冒頭に書いた胡錦濤訪日時の警備の方針のように、根本的な方向性、真理とか道理というものと全くと言っていいほど関係しないからです。逆に言えば政治が明確な決断をすれば、官僚機構はそれに従って動くのです。そのときの官僚機構の能力はもちろん民間では追随できるものではありません。

 政治を動かすのは世論であり、運動体の目的はその世論を形成していくことにあります。実際に、それがあったからこそ、この11年間に政府の対応は少しずつ変化してきたのです。重ねて言いますが、救出運動が政府との一体化をすべきではありません。一体化したい人は官僚になれば良いのであって、今は政府に対して叱咤していくべきときです。日本国の国家としての整合性を保つために、ご協力とご理解をよろしくお願い申し上げます。

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