« バルーンプロジェクト報告 | トップページ | 硫黄島 »

2008年5月28日

昨今の報道について

※以下は調査会NEWS 634号(5月28日付)に書いたものです。
--------------------
 昨日の「毎日新聞」夕刊の報道については「特定失踪者が誰か帰ってくるのですか」と、山のように問い合わせがありました。こちらは寝耳に水で、何とも答えようがなかったのですが、このところ、スクープが出ては関係者が打ち消すということが繰り返し行われています。誰が、どういう意図のもとに行っているのかは分かりませんが、いくら何でも、全く火のないところにこれだけあちこちから煙が上がることはないと思います。

 ところで、去る5月20日付で、政府の拉致問題対策本部事務局の河内隆・総合調整室長から家族会の方々に下のような手紙が送られました。まあ、書き方は丁寧ながら、良く読むとほとんど脅迫状のような中身ですが、この中で北朝鮮の体制転換について書かれている部分は、これまでの報道とあわせてみると、非常に興味深いものがあります。ご参考までお送りしておきます。

 ここでは、私も「特定の人」(この書き方には思わず吹き出してしまいましたが)として登場しており、さまざまな面で突っ込みを入れられる部分があるので、あらためて書きたいと思いますが、間違いなく言えるのは、官僚機構のシステムからして、これが河内室長だけの独断で行われているはずはないということです。何となく、これまで視界を悪くしていた霧のようなものが晴れてきつつあるのかなとも思えます。

-------------------------------
(河内室長から家族会の方々に宛てた手紙)

御家族各位

 若葉が初夏の日差しにまぶしく輝く季節となりましたが、皆様におかれてはいかがお過ごしでしょうか。 内閣官房の総合調整室長の河内です。

 拉致問題解決に向けての展望を残念ながら示せず、問題が長期化するあまり、御家族の皆様におかれては、焦燥感を募らせておられることとご拝察申し上げます。 誠に申し訳ないことであります。

 六者会合を巡る動きも不透明感を増して、おりしたたかな北朝鮮に、関係国全てが振り回されている状況が続いております。 北朝鮮国内の食糧不足の情報も耳にしますが、普通の国ならば政権への信頼が大きく揺らぐ要因となっていくのに、国民を国民と思わない「かの国」にあっては、政権に批判的な国民から餓死させていくのであれば、かえって体制に忠実な人の割合が増し、その安定感が増すというような極めて逆説的な状況にあるのではないかと、かえって唖然とする思いが個人的にはぬぐえません。誠に異質極まりない国です。

 さて、これまで皆様上京の折には、その都度、拉致問題対策本部の取り組みについては触れさせていただきましたが、平成20年度になり、いよいよ、この6月8日の福島を先頭に、地方版「拉致問題を考える国民の集い」が開催される運びとなっておりますので。本日は、この地方版「集い」についてあらためて触れさせていただきます。(このスタイルの集会としては6月21日(土)には岩手。7月6日(日)には愛媛。8月24日(日)には富山で、順次予定されております。)
 これまで、御家族の皆様が、身を粉にして様々な集会を開いて、拉致問題をアピールしてきていただいたことについては、深く感謝申し上げたいと思います。 今後とも、拉致問題への関心が薄れる事のないよう、引き続いて様々な形での御協力を、宜しくお願い申し上げます。御家族の皆様にお願いするのは、誠に心苦しい限りですが…。

 今回、そうした皆様の御努力に加えて、政府の拉致問題対策本部としても、地方自治体及び民間との共催による「集い」を各都道府県で実施していきたいと考えております。 平成18年度に内閣に拉致問題対策本部が設けられて以降は、政府主催の「国民の集い」実施してきたわけですが、これはいずれも東京での開催にとどまりました。各方面から、もっと全国的な広がりが求められているとの御指摘もいただいてきたところです。したがって、「国民の集い」と同様な内容の集会を、更に創意工夫を加えて、各都道府県レベルでも開催して参りたいと考えております。

 そのポイントを、若干申し上げたいと思います。
(1)まず、本「集い」開催の趣旨は、「拉致問題への国民の関心を維持すること」と「解決に向けた政府の取り組みに理解・協力を求め、政府・自治体・民間が御家族の皆様と心を一つにして北朝鮮に対峙してく重要性を再確認すること」です。拉致問題の解決は「国家が解決すべき問題」であることはいうまでもありませんが、自治体もいわゆる「北朝鮮人権法」第3条の「自治体の責務」に則り世論の啓発に努めるとともに、各地の様々な民間団体とも連携し、各地域から拉致問題解決への決意をアピールしていこうとの企画です。現実の開催地については、地域の熱心な皆様が、精力的に手を挙げられたところから、順次、開催を検討していくことになりそうです。
 なお、主催・共催となる民間団体については「救う会」を始めとする様々な団体がありえますが、御家族の皆様との間では、いずれの「集い」においても緊密な連係を図って参りたいと考えております。 この手紙をしたためている趣旨もまさにこの点にあるのです。
 地方議員の方の関心が高いところは、議連も共催者に連なるなど、その集会のあり方には、地域毎に多様性があってよいものと考えております。 この意味からしますと、」政府が共催者に名を連ねない集会であっても、(申請がある場合には)その意義を認め、後援したり、あるいは招かれて関係者が出席・講演したりするということはいくらでもあるわけです。
 なお、政府が共催していない集会に政府関係者が出席するような場合には、集会の最後に集会のアピール文を受けることがよくございます。この場合、その決議については、官邸要路とも情報共有しております。 ただ、本「集い」は政府自らが主催者の一員となるものですから、主催者でありながら、その集会でのアピールや決議の類いを「当の政府に対して」行うと言うのは奇異な印象を抱かせる(政府が拉致問題にしっかりと取り組むべきは当然のこととの趣旨から)ことになりますので、この種の決議を採択をすることなどは、本「集い」の場では想定していないことになります。
(2)次に、政府が共催者に名前を連ねる以上、全国版「国民の集い」と同様に、政府主催行事に相応しい内容にしたいというのが基本的な考え方です。
 「集い」は地方で開催されますが、その地方における拉致被害者に限らず全ての拉致被害者(認定被害者はもとより、北朝鮮に寄って拉致された可能性を排除出来ない人を含む)の早期帰国を目指すものであります。 対象は全ての拉致被害者であり、いわゆる特定失踪者を排除するものではありません。ただ同時に、対象者が「全て」の拉致被害者である以上、開催地に縁のある特定失踪者だけに限定するものでもありません。事実上、「集い」にご出席されるのは開催地に縁のある方ではありましょうが、その方だけにとどまるものではないという意味です。
 また、集会全体のメッセージが、北朝鮮と交渉している現在の政府方針があたかも変更されたとの誤解を招きかねないようにしなくてはならない、と考えております。政府が従来から内外に対して行っている説明と矛盾したことをいっているというような印象を与えることは、極力回避したいと考えているわけです。
(3)もっともこのように説明いたしますと、「何か制約がある窮屈な集会なのか」との印象をもたれる方があるかもしれません。そこで、少々くどいようで恐縮ですが、あらためて「御家族の立場から」、この真意につき説明させて頂きます。
 御家族の中にも、「現在の政府方針が生ぬるい!」「金正日体制が崩壊しない限り、拉致問題の真の解決はあり得ない!」との意見をお持ちの方もおありだろうと思います。 そのような御意見がでられることは、十分理解も共感も出来ます。 政府として家族会の皆様の発言内容を制約しようという考えは全くありません。何よりも、御家族の切実な思いこそが、聴衆の心を揺さぶるものです。どんな美辞麗句よりも、 「御家族の魂の叫び」こそが「同胞を救わなくては!」という思いを駆り立てる原動力です。御家族の思いには、北朝鮮への不信・体制批判にとどまらず、当然、日本政府に対しての不満・批判もあろうかと思います。 これだけ解決に時間がかかって思案っている以上、当然のことですし、また、中には、叱咤激励もあろうかと存じます。
 ここで御留意頂きたいのは、日本政府が北朝鮮当局を相手にして外交交渉で問題解決をしようとする以上、日本政府自身が金正日体制打倒を方針とするならば、そんな相手方とは北朝鮮は本気で交渉テーブルにもつかないことになってしまう点です。誤解を恐れず、具体例をあえて申し上げれば、例えば、「金正日体制を転覆させ、自衛隊を派遣しない限り、拉致被害者を救出出来ない」というような主張は、「対話と圧力」という一貫した考え方の下で解決に向け取り組んで行く政府の方針とは相容れないと言う事です。このことは、同時に、現体制下では(北朝鮮当局のある特定の部署により)拉致被害者の情報がしっかり管理されているだろうから、しかるべき人の「決断」さえ示されて「解決」に向かう方が、体制が転覆され大変な混乱状態の中でよりは、拉致被害者救出に現実として適するという側面もあると判断されるからです。
 さらに、「政府が税金を使って集会を開催するのに、特定の意見を排除するのか」ととられる方もおられるかもしれません。集会の正確が、(いわゆるタウンミーティングのような)各界各層のご意見を伺うような場なら、その批判は的を射ているのかもしれません。しかしながら、この「集い」は、「参加者が自分の問題として拉致問題を考え行動するきっかけとなるもの」であり、また、「各開催地にて、日本国は北朝鮮に対して拉致問題を決しておろそかにしないことの決意を一致団結して示す場である」ことを想起していただきたいと思います。アプローチの違いをことさら強調する場ではないのです。 要は、いろんな主張があって然るべきなのですが、少なくとも政府共催の集会である以上、政府としては金正日体制打倒を声高に叫ぶようなアプローチはとらないということです。
 なお、この点に関し、「特定の方」をこの「集い」から排除したとの話もきかれますが、政府が「特定の方」を名指しで排除したような覚えはありません。共催者間で集会の趣旨等につき事前調整するプロセスを丁寧に行っていくことは重要であり、もとより関係者の間で誤解・疑義を与えような事はあってはならないと考えます。 いずれにしましても、共催していただける団体の皆様方には、この様な政府の方針につき十分御理いただいた上で、集会のための準備を政府とともに進めていただく事になります。
(4)政府としては、地方版「集い」を通じて、一層拉致問題啓発に取り組んでいく所存ですが、あくまで共催者として参加し、その資格の範囲で費用を負担することも予定しております。 会場等借り上げ料や広報啓発経費につき、応分の負担をしてく所存ですが、自治体や地元団体ともよく相談して決めていこうと考えております。これは、民間団体に対する補助金拠出を行うものではありません。 必要経費の一部を国も負担する以上、地域の方々が全く独力で集会を開催するよりは、結果的に開催がしやすくなるという面はありましょう。

 いずれにしても、こうした「集い」を通して、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、北朝鮮に対して、毅然とした対応をとっていく考えです。
 ここまで縷々説明させていただきましたが、これは、地方版「国民の集い」につき当方の説明が不十分であり、一部の方に誤解を与えてしまったのではないかと心配するためです。 そこで「つどい」開催前のこの段階で、御家族の皆様にはあらためて説明をさせていただいた次第です。

 日中は汗ばむ陽気でも、朝晩には冷えるこの季節、御家族の皆様におかれては、お体にはくれぐれもご留意下さい。

平成20年5月20日(火)

                   内閣官房 拉致問題対策本部事務局
                   総合調整室長 河内隆

|

« バルーンプロジェクト報告 | トップページ | 硫黄島 »