中山議員の拉致担当相就任について
※本日8月2日付の調査会NEWS 665号に書いたものです。
中山恭子・総理補佐官が拉致担当相に就任しました。家族会の皆さんは概ね歓迎ということのようです。しかし私にはそうは思えません。敢えて警告しておきたいと思います。
今回の人事は政府との一体化路線見直し(特に家族会の)に対するつなぎ止めのためのものです。もともと9.17の後中山さんを引っ張ってきたのは福田官房長官(当時)ですし、その当時から家族会と政府のクッションという役割が担わされていたのは間違いないでしょう。安倍政権から「居抜き」で引き継いだ内閣で、政府と救出運動の関係も一体化の路線が続いていたわけですが、先日の実務者協議などを契機にこの路線が変化し始めていました。
今回の「中山拉致担当相」はその権限も明確でなく、物理的にもできることは極めて限られていると思います。ご本人が猟官運動をしたという話もありませんから、本人が拉致問題を自分の力で進展させるという思いでなろうとしたのではなく、福田政権への国民の風当たりを抑えるための風よけではないか、きつい言い方をすればそういうことです。
中山さんの名誉のために言っておけば、その制約の中でも何とか事態を前に進めたいという思いがご本人にあったことは間違いないと思います。まだ「支援室」になる前の「中山参与室」と言っていた当時、私は救う会の事務局長でしたが、「始めて政府と同じ方向を向いて仕事をした」と感じたこともありました。そして、どんな話だったかは覚えていませんでしたが、補佐官になった後中山さんの口から、事態を前に進めようとすると後ろから弾が飛んでくるといったような趣旨の発言を聞いたこともありました。
中山さんは今参議院議員ですが、補佐官を続けたままでしたから、事実上政治家としての仕事はほとんどしていません。基本的には官僚が議員バッジを付けただけです。ご本人のホームページもずっと閉鎖されたままで、政府方針を越えては拉致問題に関する自分の見解の発信もしていません。これまでの経過からすればおそらく今後もできないでしょう。
安倍政権になったとき、家族会の人たちが「このときを逃したら拉致の解決はない。だから安倍政権を支える」という思いになったのは仕方ないことだったと思います。しかし、その「政府と一体」路線は結果的に失敗でした。安倍さんに本当に拉致問題を解決しようという思いがあったとすれば、その一体化路線自体が運動質的・量的低下を招き、結局は安倍さんの足かせとなったと、私は思っています。
同じ過ちを犯すべきではありません。それは時間だけが経過するだけではなく、ずるずると制裁を解除し、拉致問題を棚上げして国交正常化に向かう路線につながります。一体化になっていればそのとき救出運動まで道連れにされる懸念もなしとしません。記者会見で中山さんは「全力をあげて帰国させるように努力していく」と言っています。やはり「取り返す」とは言っていません。その意味では政府の方針は変わっておらず、放っておけば今後も同様でしょう。
中山さんが本当に全ての拉致被害者を救出したいと思っているのであれば、拉致担当相として力を発揮してもらうためには運動をする側は「支える」のではなく可能な限りの注文を付け、国民世論によって政府の方針を変えるようにしなければなりません。おそらく中山さんは直ぐに家族会の人たちと会ったり、政府が一所懸命やっていることをアピールするでしょう。特定失踪者のご家族にも会うかも知れません。しかし、救出へ向けての具体的な動きがないのであれば、それはまさに福田政権としてのポーズでしかありえず、認められるものとは言えません。
せっかくの大臣就任に水を差すようなことを言えばまた各方面から嫌われるでしょうが、先日大沢孝司さんのお父さんも亡くなりました。時間の余裕はなく、国際関係の激変も予想されます。安倍政権のときの失敗を繰り返してはいけないと、切実に思います。
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