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2011年9月 1日

山本美保さんに関わるDNAデータ偽造事件について

【調査会NEWS1072】(23.9.1)

■山本美保さんに関わるDNAデータ偽造事件について

※本日の記者会見で下記の発表を行いました。

  平成23年8月21日付山梨県警の回答と鑑定人による説明について

 特定失踪者問題調査会と山本美保さんの家族を支援する会、山本美保さんの家族で提出した7月20日付の質問状について、山梨県警からの回答が8月21日付でなされているが、この回答は最も重要な部分に疑義があり、受け容れることのできないものである。

 回答は他のところでは「承知しています」などと含みを持たせているのに、最後の二つの質問、すなわち

・鑑定人は、捜査機関との癒着・特殊な関係等はないか。捜査機関の期待する鑑定人ではないか。
 との質問には「ご指摘のような関係はありません」

・鑑定人は当該事件に利害関係はないか。
 には「利害関係はありません」

 との断定的な回答をしているが、その根拠は一切記載されていない。山本美保さんに関わるDNAデータ偽造事件で問題とされているのは技術的な信頼性の問題ではなく、最終的な結論が他の要因とことごとく矛盾しており、人為的なデータの偽造が行われていると思われることにある。

 回答中に3回出てくる「DNA鑑定についての指針(1997年)」は、その策定過程自体が上記2点を疑いうるものであり(別紙参照)根拠も示さず否定できるものではない。

 また、この回答に付けられている文書では「当該鑑定人にあっては、本件鑑定書に関してご家族に対して誠意を以て説明を尽くすとの意向を一貫して示されており、今後の日程調整にご協力をお願い致します」とあり、県警からはその後再三再四説明の日程を決めて欲しいとの督促がなされている。しかし本回答において最も重要な部分に答えないままで当事者の説明を聞けば「警察はちゃんと説明しているのに家族や支援者だけが納得していない」という誤った構図を作りかねない。昨年12月6日山梨県議会での質疑の中で県警本部長が「(平成16年)DNA型鑑定をした鑑定医を御家族がみずから訪問され、鑑定結果について直接、説明を受けておられます」と答弁していることからもそれは明らかである。

 これまで行ってきた質問への県警の回答は常に疑惑が深まるだけのものだった。例えば特定遺体との照合をしているという話は平成16(2004)年3月5日の発表まで家族は一切聞かされていないのに、県警ではそれ以前に4回ないし5回説明していると強弁している。そのうちの1回である平成15(2003)年11月7日に森本美砂さんが県警に行ったときのことについて、平成16年3月17日付の県警回答では身元不明遺体の「ネックレスとGパン、下着」の写真を見せたとしているが、平成21(2009)年6月4日付の回答では遺体の写真も見せたことになっている(実際には着衣など遺留品の写真のみを見せ、「これは違いますよね」といった、極めて軽い聞き方をしただけである)。

 このような状況では県警から何度回答文書を受け取り、また説明を聞いても時間の浪費にしかならない。本件はそもそも山梨県警の問題というより警察庁、あるいは首相官邸レベルの問題である。ことは山本美保さんのみに留まるものではなく、他の特定失踪者、さらに拉致事件全体への政府・警察の取り組みに重大な疑義を抱かせる問題であり、県警に責任転嫁をするのではなく、責任ある説明を求める次第である。

  平成23年9月1日

特定失踪者問題調査会代表 荒木和博
同 理事 山下滋夫

(資料)「DNA鑑定の指針(1997年)」について

 名古屋大で2回目のDNA鑑定を行った勝又義直・同大医学部教授(当時)は山梨県警回答文の中に3回出てくる「DNA鑑定の指針(1997年)」策定の責任者であり、平成16年(2004)県警発表の2年後、平成18年(2006)に科警研の所長になっている。

 「DNA鑑定の指針(1997年)」は「日本DNA多型学会」の中に設けられた「DNA鑑定検討委員会」が作成した指針である。この指針は勝又教授が委員長のときに作られたもの。平成8年(1996)9月にDNA鑑定ガイドライン作成の作業が始められ、翌月勝又委員長が起案した「DNA鑑定についての勧告(案)」が各委員に配布された。

 同年12月5日、委員会が開かれ、「DNA鑑定についての勧告(1996年案)」が原案として検討された。この時には、以下の検査の再現性の保証の問題についてはいずれの委員からも異議ないし修正意見はなかった。

2 一般的注意

 4)検査の再現性の保証

 DNA鑑定に用いる手法は学問的に確立されたもので少なくとも二カ所以上の独立した機関で実施できるものであるべきである。また、DNA資料あるいはDNA未抽出の証拠資料は再検査の可能性を考慮して保存されるべきである。証拠資料が微量で全てを用いて検査せざるえない場合には、さらに高感度の検査法が開発されるまで実施しないことが望ましい。やむを得ず証拠資料の全量を使用する場合は、資料のDNA量と個々の検査で用いたDNA量を明示すると共に鑑定経過を詳細に記録した実験ノートを開示すること、及び可能ならば関係者ないし外部の第三者の立会いのもとで実施することが望ましい。

4 刑事鑑定について

 3)一般的注意の項で述べた検査の再現性の保証については厳密に守られる必要がある。微量な資料で検査可能なPCR法を用いれば再検査のための資料の一部を残すことは一般に充分可能である。

 この案は委員全員一致で同日承認されたにも関わらず、12月27日に科警研の委員から修正意見が出される。勝又委員長はこの意見を一部取り入れ、翌平成9年(1997)1月17日、第一修正案を各委員に配布し意見を求めた。しかしその後も内容について科警研所属委員らだけが猛烈に反対し、警察の意向が強く反映された次の第五修正案でやっと決定している。また、当初は「勧告」とされていたものが「指針」になっている。

5)再鑑定への配慮
 繰り返し採取が可能な対照資料は別として、再度採取ができない資料の場合には、可能な限り再鑑定の可能性を考慮してDNA未抽出の資料の一部が保存されることが望ましい。資料の全量を消費する場合、鑑定人はそうせざるをえなかった状況を含め鑑定経過を詳細に記録するよう努めるべきである。すべての鑑定において、鑑定人は法廷の求めがあれば鑑定経過を詳細に記録した鑑定ノートを開示するべきであるが、資料の全量を用いた場合にはとりわけこのことがあてはまる。

 DNA検討委員会の委員である弁護士たちは勝又委員長に対して意見書を出しているが、結果的には科警研の委員に押し切られる形になった。以上のような状況を考えるとき、「鑑定人は、捜査機関との癒着・特殊な関係等はないか。捜査機関の期待する鑑定人ではないか」「鑑定人は当該事件に利害関係はないか」は当然に疑われるべき内容であるのに、理由無しにそうでないと断定すること自体に疑義を感じざるを得ない。

<その他の問題点>

 県警の回答にはそれ以外にも問題点がいくつもある。今後さらに明らかにしていきたいが、とりあえず気付いたことでも例えば次のようなことがある。

1の(8)「試料はどこでどのように保管されていたか」という質問について
 「薬包紙に包まれた乾燥させた骨髄は、採取した遺体を特定できるよう一連番号を記載した茶封筒に入れられ、山形大学医学部法医学教室の血液検査室内にある実験台の引き出しで保管されていました」との答えになっているが実際は実験台ではなく、ただの事務机である。

1の(10) 「保管中にDNAの分解、汚染、他のDNAの混入の危険はなかったか」という質問について

 「当該骨髄は、警察に提出されるまで、一度も開封されておらず、他のDNAの混入の危険はなかったものと考えています」とあるが封筒の上部は切り取られ、開いていた。一度も開封されていないという証拠はないはずである。

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