北総事件
以下は調査会の曽田常務理事がまとめたものです。ご参考まで。こんな事件は数え切れない程あったのだと思います。これが日本の現実です。
【調査会NEWS1123】(24.1.22)
■北総事件
特定失踪者問題調査会は「1万キロ現地調査 第5回 千葉県」を行うにあたり、事前調査として県内特定失踪者の方々について当時の新聞記事等の情報を収集していたところ、1974(昭和49)年の6月下旬に千葉県香取郡多古町所在の「北総建設」会社社長・三村繁生こと孔泳淳(当時47歳)が『北朝鮮の工作員』として逮捕されていた記事を発見した。
報道各社等の記事によれば孔泳淳は、元日本共産党の大河内山村工作隊に所属し活動を行っていたが、1953(昭和28)年10月、放火等の容疑で検挙されて実刑が確定する直前に逃亡。
その時効後に多古町に現れ、建設会社を経営。成田空港の工事に関わるなどの一方、日本人従業員の戸籍謄本を騙し取り、これを利用して旅券を偽造し日本人に成りすまして韓国などへ不法に出入国をする傍ら、国内外の情報を収集して北朝鮮本国に報告していたもので、後の大阪府在住の原敕晁さん拉致事件の実行犯・辛光洙と同じく「背乗り」という手法で日本人に成り代わって工作活動を行うという事件であった。
調査会としては、本事件が千葉県の香取郡多古町に拠点をおいた事件であったことを重視し、拉致問題との関連性を考慮して資料を収集・調査したところ、
(1)孔泳淳が経営していたとされる「北総建設」会社は一般家屋の住所で、実際には別の場所で会社登記がされていること。
(2)事件の舞台となった多古町は「北総地域」であるが、隣接した「東総地域」には年代のバラつきはあるものの、調査会に寄せられている千葉県内の失踪者4名(伊藤克さん、加瀬テル子さんを含む)がこの地域で失踪していること。
(3)市原市で失踪した古川了子さんは1973(昭和48)年、千葉市で失踪した峰島英雄さん、関谷俊子さん、遠山常子さんの3人は事件が摘発された1974(昭和49)年と合致する年代であること。
(4)今回の現地調査でも峰島さん・関屋さん・遠山さんの失踪をはじめ「千葉港」というキーワードが見え隠れしていることが分かったが、下記「千葉日報」記事でも千葉港に関わる内容のものがあること。
など、重視すべき事件であると考えている。
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参考記事(千葉日報)
1974(昭和49)年7月3日付
「北朝鮮スパイ逮捕(多古町の会社社長)」 暗号解読、情報流す 偽装旅券使い不法出入国
警視庁公安部と本所署は日本人名義の旅券を偽造し、韓国などへ不法出入国していた本県香取郡多古町北中1,136 北総建設会社社長・朝鮮人三村繁生こと孔泳淳(47)を6月28日に旅券法違反などの疑いで逮捕、調べていたが、3日までの調べで、孔泳淳は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のスパイ工作員で、最近では大統領緊急発表後の韓国情報を探ったり、韓国へのスパイ工作員の養成などをしていたことがわかった。
同公安部はこれまでに、孔の自宅や群馬県桐生市内に住んでいる妻子宅など計3か所を捜索、偽造パスポート、スパイ工作に使用した受信用乱数表、暗号解読表、受信機、カセットテープ、メモ類など170点を押収した。
同部の調べによると、孔は韓国慶尚南道で生まれ、昭和11年ごろ日本にいる父親を頼って長野県木曽福島に来た。
同23年ごろから東京渋谷区に住み、日本共産党に入党、27年山村工作隊に入り、30年頃まで日本共産党員として活躍、公務執行妨害、放火などの疑いで4回逮捕されている。
孔はその後本県で建設会社を設立、42年ごろの成田空港第一期工事では最盛時約150人もの労働者を使い、空港建設工事に参加したが、最近では付近の宅地造成工事などをしている程度で、正社員も数人しか雇っていなかったという。
同部の調べによると、孔の直接の容疑は
(1)昭和47年11月28日、孔の会社の設立発起人の一人・香取郡多古町喜多、鈴木晃二郎さん(47)名義の一般数次旅券を不法に入手、旅券には自分の写真を張り付け、この旅券で48年1月香港、同9月韓国へ旅行、不法出入国した。
(2)31年11月、当時住んでいた目黒区で外国人登録の確認申請をしたのを最後に再登録せずに不法滞在したーで、出入国管理令、旅券法違反、外国人登録法違反などの疑い。
孔は28年10月東京で放火容疑で逮捕され、32年最高裁で懲役5年の実刑判決を受けたが、その直前逃亡、行方をくらましていた。孔は30年ごろ日共を離党していたという。
これまでの調べによると、孔はラジオを通じて北朝鮮から送られてくる5ケタの暗号乱数数字を受信、解読して指令を受け、主として在日韓国人などに工作員を作り、この工作員を韓国に送り込んで情報を入手、普通の手紙に暗号を刷り込んで北朝鮮に情報を流しており、最近では6月22日、同28日に北側から指令を受けていた。
孔は公安部の調べに対し、直接の犯罪事実は認めているが、働きかけた韓国人やスパイ工作の補助者などについてはまだ自供をしていない。
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1974(昭和49)年7月10日付
「格好の密航ルート?」 千葉港、一段と厳戒 北朝鮮スパイ 「無関係といえぬ」海保と合同水際作戦
東京入管千葉出張所は警視庁に摘発された香取郡多古町の孔泳淳(47)の北朝鮮スパイ事件を重視、千葉港が新たな密航ルートに狙われているとの情報も入手しているため同港の警戒を強化することになった。
いままでのところ、孔泳淳と千葉港を結ぶ具体的材料はあがっていないが、東京入管本部は警視庁から身柄を取り次第、港などとの関連を詳しく追及する方針。
また、秘密工作員に限らず密入国が韓国船の出入りの急増に伴い増えているーとの見方を強めており、千葉海保とも協力して水際作戦を展開する。
外国船を最重点マーク
東京入管千葉出張所によると韓国船は今年に入って5月までに30隻(乗組員総数約900人)が入航。
大部分が400トンから2〜3,000トンクラスの貨物船、タンカー。
この数年、同港を舞台にした密入国事件は表面化していないが、摘発した密入国者の取り調べから「千葉港から上陸した」との供述も数件あるといわれ、警戒の度を強めている。
特にこの種の事件の場合、事前の情報が大きなカギとなるが、情報入手による摘発はほとんどなく、臨船による船内捜索で見つけるケースが大部分だ。
ところが、千葉港は船橋から君津郡袖ヶ浦町までの約40キロを港域とし、しかも入管所員は警備艇乗船員を除いて3人だけ。
監視の目が届かず、企業岸壁の警備員に協力を依頼しているのが現状だ。
同港出張所の近藤義男所長によると、船内捜索は韓国船を重点に行っている。出入国管理令による臨船権をフルに活用、これには千葉海保の署員も合同で乗り組み、密航者が潜んでいるとみられる機関室から船倉までをくまなく捜している。
しかし、船内に特殊な密室を設けて船員ぐるみで密航者をかくまうケースが多く、これまでのところ、カラ振りに終わっているのが実情だ。
また、千葉港の場合、企業岸壁でチェックしようにも他人のショアパス(寄港地上陸許可書)を使われると、写真がないため本人かどうかの確認ができない。
したがって、密航者は正規の船員に成りすまして別の船員と一緒に上陸、帰りは正規の船員だけが密航者のショアパスを受け取って帰船するという手口。
同出張所が警戒を強めている韓国船の中でとくに“要注意”しているのは釜山や麗水からの直行船。
これら港は千葉港を舞台にした電気製品、時計などの密輸事件ともからんでおり、密航者を送り出す地下組織があるとみられている。
また、“密航料”は最近あがって一人30万円が相場とされている。
水際で食い止める◇近藤義男東京入管千葉出張所長の話=
密入国に千葉港が狙われているとの情報は確かにあるが、具体的な摘発には至っていない。
港域がかなり広いためパトロールにも限界がある。このため各企業や千葉海保などの協力を得、情報交換を密接にして水際で食い止めていきたい。
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