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2012年11月27日

昭和13年3月17日衆院本会議(西尾末廣)

 昭和13年3月17日 衆議院本会議 社会大衆党 西尾末廣議員(後に民社党初代委員長)

 この演説は国家総動員法について賛成の立場で行われたものです。国家総動員法というと中学高校の頃は軍国主義の象徴のような教えられ方をしてきましたが、この内容を読むとまた別の見方ができると思います。特に「大多数の有色人種が、白色人種の優越感によって支配されている現状に鑑みまして、また東洋の平和確立のために実力的に戦い得るのはわが日本の国をおいて他にはないという信念に基づきまして、この日本の歴史的使命達成のために、敢然立って邁進すべきとの意見が高まり来たっているのであります。われわれはこの歴史的使命をはっきりと認識しなければならぬ」という言葉には今の私たちにも欠けている覚悟を感じることができます。

 最後のところで「ヒットラーのごとく、ムッソリーニのごとく、あるいはスターリンのごとく」のくだりに保守党議員から「スターリンという名前を挙げた西尾はアカである」とクレームがつき、西尾さんが議会から除名されたことは有名です。除名を決める本会議は非公開で議事録も公開されていません。この西尾さんの「一身上の弁明」と西尾さんを擁護した尾崎行雄翁の演説は素晴らしいものだったと言われており、全文を探し出したいと思っています。

(以下原文を現代仮名遣いに直し、適時改行を入れました)

〇議長(小山松壽君) 西尾末廣君。

 〔西尾末廣君登壇〕

〇西尾末廣君

 私は社会大衆党を代表して本法案に五箇条の希望条項を付して賛成の意を表したいと思うのであります。本案を審議するにあたっては、局部的、また狭隘なる観点からするのではなくして、今後の世界はいかなる方向に向かっているか、さらに現実の国際情勢はどうなっているか、わが日本の歴史的使命は何であるか、そういう点から考えまして、この判断をしなければならぬと思うのであります。

 今や世界は資本主義的政治経済制度の弊害のために悩まされているのであります。この害悪はその国々の内政問題であると同時に、また国際問題となって現れてきているのであります。かつて近衛首相は、今日の相克摩擦は国内的にも国際的にも、持てるものと持たざる者との対立相克が根本的原因であると喝破せられたことはけだしまことに至言であると我々は信ずるのであります。

 今や世界は個人主義より相互主義へ、自由主義より統制主義へと進展しつつあるのでありますが、各個人の自由をある程度に制限することによって、全体の発展を図り、その部分としての個人的自由を合理化し、かつ増大せんとする方向に向かいつつあることは、われわれのはっきり認識するところであります。

 次にわが日本は徳川三百年の長きにわたる鎖国主義のために、世界各国の発達に取り残されておったのでありましたが、数年前よりわが国にはわれわれが現実に見るがごとき、大多数の有色人種が、白色人種の優越感によって支配されている現状に鑑みまして、また東洋の平和確立のために実力的に戦い得るのはわが日本の国をおいて他にはないという信念に基づきまして、この日本の歴史的使命達成のために、敢然立って邁進すべきとの意見が高まり来たっているのであります。われわれはこの歴史的使命をはっきりと認識しなければならぬ。

 以上の認識の上に立って今日の国際情勢を見るときに、国家総動員法は絶対的に必要だると確信するものであります。(拍手)すなわち言うまでもなく、わが日本は現実に支那国民政府と戦っておるのである。そうして長期戦に入っているのである。もし長期戦中日本の国防力に少しでも間隙を生ずるならば、いつ第三国の干渉または戦争参加があるかも知れないのであります。(拍手)

 新聞の報ずるところによりますならば、欧州の天地には独墺合邦をめぐって第二の欧州戦争の危機が、まさに一触即発の状態に迫っているのであります。またこの新事実は東洋に重大なる影響をきたすであろうこともわれわれは考える。今にしてその対応策に万遺憾なきを期さなければならぬのであります。(拍手)

 また外伝の報ずるところによりますならば、常に平和の使徒のごとく自ら称してきたところの合衆国においてさえ、2月25日の下院陸軍委員会において、戦時においては大統領は産業尽力の一般的徴発を命じうること、及び公正なる利潤以外の全ての収益を国家に収容すべき税制確立等を含むところの、戦時産業動員法を可決しているのであります。

 またこれと並行して、かねて陸軍省において立案中の、一朝有事のときには4か月以内に230万人の軍隊を戦線に送ると共に、これが銃後生産力に万遺憾なきを期するところの戦時総動員計画が完成したと報道されているのであります。かかる国際情勢はさきに述べたわが国の歴史的使命を果たすために今や躍進を遂げつつある日本にとりましては、国防力の充実が絶対的に必要であることは多言を要しないのであります。(拍手)

 しこうして近代戦争は国力戦争であり、兵員の動員並びに軍需工業の動員のみでは極めて不十分であって、国の人力、経済力、精神力をすべて一つの中心に組織化し、一元的作戦計画の下に一糸乱れず、総合的に活動しうるようにしなければならぬのである。(拍手)国家組織、経済組織が極度に高度化している日本においては、一部局の破綻が、直ちにもって全局の破綻を惹起する恐れがあるのであります。

 国力の周到なる組織化、すなわち国家総動員計画が絶対的必要であるとわれわれは信ずるのであります。(拍手)本案審議中に現れた一つの反対意見、すなわち総動員計画を立法化すること、すなわち本案提出は国民の忠誠心を信頼せざるものであり、かつかえってこれを阻害するものであるとの意見が出たのでありますけれども、かかる意見は一切の労働立法に対して、これはわがくに独特の家族主義、主従の美風、温情主義の醇風美俗を破壊するものなりとして反対してきた態度と全く同断であって、その非科学的、非論理的であるという点においては、遺憾なくその招待を暴露しているのであります。(拍手)

 そうしてこれは単なる感情論であります。もしそれかかる美しい衣の下に、この観念論の下に、公益よりも私益を先にし、国家よりも個人を重しとするがごとき資本主義的イデオロギーが含まれているとするならば、この際かかる思想は断固として排撃しなければならぬのであります。

〔発言する者あり〕

〇議長(小山松壽君)静粛に願います。

〇西尾末廣君(続) 労働者は労働をもって国に報じ、財力ある者は財力をもって国に報ずるとの愛国心の具体的表現と、これを組織化し、総動員法によらざれば、今後の戦争に勝利を博することはできないのであります。単なる抽象的なる愛国心のみによっては、戦捷を確保することができないのであります。

 本案はまた憲法第31条に規定せる非常大権を干犯せる者成りとの議論があった。また広汎なる委任勅令は憲法違反なりとの説をなす者があった。これに対する政府の弁明と対比して、われらは本案提出の最初より確信しておりましたところの、すなわち

 〔発言する者あり〕

〇議長(小山松壽君)静粛に願います。

〇西尾末廣(続) 大権干犯にあらず、憲法違反にあらずとの確信を、われわれは少しも動揺せしむることがなかったのであります。(拍手)

 しかしながらかかる広汎なる委任勅令を伴う立法は、たとえ大権干犯にあらず、憲法違反にあらずと致しましても、また将来の戦争の形態及びその規模等を予測し難きが故に、やむを得ざるに出でたるものにせよ、一歩誤れば憲法の精神にもとり、かつ行政独善に陥り、ために国民の心からなる積極的協力を阻害することとなり、ひいては本法の所期する目的と遠く相隔たる結果となるを保し難きを思い、本法の実施運用にあたっては、政府は極めて謙虚にして慎重なる態度をもって望むべきでありまして、いやしくも権力をもてあそび、かつ権力に驕ってはならないと信ずるのであります。(拍手)

 それゆえにわれわれはここに五つの警告的希望条項を付しまして、もって躍進途上にある日本の全責任を背負って立つところの政府をして、誤りなからしめんとする者であります。

 すなわちわれわれの希望条項の第一は、本法は最も広汎なる画期的国家統制の規定にして、老朽固定せる現行行政機構をもってしては所期の目的を達成し難きに鑑み、政府は内閣制度、中央並びに地方行政機構、官吏制度等全般にわたる刷新改革をだんこうすべし、かように言っているのであります。

 行政機構の革新及び管理制度の刷新改革は、現下の国際関係に鑑みるならば、悠長に調査研究中であるということでは済まされないのであります。もし調査研究に藉口して、荏苒(じんぜん)日を過ごすようなことがありますならば、政府自ら本法急施の必要を強調したことを裏切り、議会を、国民を欺きたりとの非難を甘受しなければならぬのであります。(拍手)

 また近衛首相は行政機構の改革と、官吏制度の改革については、現在政治家中もっとも熱心なりとわれわれは信じているのでありますが、さらにまたこの二つの改革は、極めて至難なことに賊するが故に、全国民の信頼を一審に集めているところの近衛首相こそ、この難事をなしえないとするならば、果たして何人がなしえるでありましょうか。

 ついに行政機構の改革と、管理制度の改革はなしえざるものとの絶望感を、国民に抱かしめるようなことがありますならば、躍進途上にある日本国家のために、実に由々しき大問題であるとわれわれは思うのであります。我々は近衛内閣存続中に、ぜひともこれが改革されますように、近衛総理の大英断を切望してやまないものであります。

 希望条項の第二は、本法は国民の挙国的協力を基礎とするにあらざれば所期の目的を達成し難きに鑑み、挙国的体制を完成するため常置委員会の設置、選挙制度の改正を含む衆議院の改革並びに華族議員の減少、職能代表の参加をふくむ貴族院の改革を断行すべし、こういうのであります。

 第三は、本法の運用に関しては政府独善に陥ることを避け、国家総動員審議会に準じて本法の統制条項に委員会を設置すべきはもちろん、従来の各種委員会に見るがごとく、形式に堕することなく、国民各階層の総意を積極的に反映せしめるよう最善の努力を払うべし、四は本法の運用による直接の経済的損失については補償の規定あるも、間接の損失については何らの規定なきをもって、政府は本法の運用につき、国民生活を阻害せざるような万全の注意を払うと共に、戦時社会政策の徹底を期すべし、五は本法中銃後生産力の拡充と労働動員に関する規定の重要性に鑑み、政府は労働者の積極的協力を実現しうるよう速やかに労働国策を確立すべし(拍手)これがわれわれの政府に対する希望条項であります。

 終わりに臨みまして、特に諸君と共にこの際われわれは思いを新たにしなければならぬ一事があるのであります。それは去る3月14日は五箇条のご誓文をご発布されました70年目にあたるのであります。私はこの機会に、このご誓文及びその五箇条の御誓文に関する勅語を拝読致しまして、まことに思い深いものがあるのであります。

〔発言する者多く議場騒然〕

〇議長(小山松壽君)静粛に願います。

〇西尾末廣君(続)「わが国未曾有の変革を為さんとし」と、五箇条の御誓文の勅語の冒頭に仰せられているのであります。誠にしかり、今日においてもわが国は未曾有の変革を為さんとしているときであります。そうして御誓文の中には「旧来の陋習を破り天地の公道に基づくべし」こういうご主旨も謳われているのでありまして、この精神を近衛首相はしっかりと把握致されまして、もっと大胆率直に日本の進むべき道はこれであると<※削除部分 ヒットラーのごとく、ムッソリーニのごとく、あるいはスターリンのごとく>大胆に日本の進むべき道を進むべきであろうと思うのであります。(発言する者多く議場騒然)

 すなわち今日におきましては(「何を言うか」「取り消せ」と呼びその他発言する者多く議場騒然)今日わが国の求めているものは、確信に満ちた政治の指導者であります。国民の信頼を前進に集めておりまするところの近衛首相にしてのみ、はじめてこれを断行することができるのであります。私はこの点を特に総理大臣に申し上げまして、本案に対する賛成の意を表する次第であります。(拍手)

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