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2013年3月11日

第二次人権救済申立で補充申立

【調査会NEWS1314】(25.3.11)

 昨年3月23日に申立が行われた第二次人権救済申立(7件8人)のうち、昭和51年に埼玉県川口市で失踪した藤田進さんについて3月7日に補充の申立が行われました。

 これは北朝鮮から出た藤田進さんとされる写真について、警察が鑑定から8年経ってご家族にその結果を通知したこと等について補充したものです。改めて政府・警察の拉致事件に対する対応の問題点が浮き彫りにされています。ぜひご一読下さい。

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(補充申立書)

日弁連人1第637号 人権救済申立事件
申立人 天内みどりほか11名

2013年(平成25年)3月7日

日本弁護士連合会人権擁護委員会委員長 小林七郎 殿

申立人ら代理人弁護士 川人博 同 土田庄一

 申立人藤田隆司ほか1名の申立事件について

 頭書人権救済申立事件の申立人藤田隆司ほか1名にかかる申立事件(以下「本件藤田申立事件」という。)につき、補充して以下のとおり申述いたします。

1 警察当局による鑑定書の存在

(1) TBSの吉田豊氏が2004(平成16)6月脱北者Aから入手した本件写真1及び同年8月5日テレビ朝日の木村浩氏が入手した本件写真2のそれぞれが藤田進氏である可能性があるとの結論を得た申立人らは、同一人であるかどうか確認するため、東京歯科大学法人類学研究室助教授(当時)橋本正次氏に鑑定を依頼した。その結果、失踪前の写真の藤田進氏と本件写真1,写真2に写っている人物は法人類学的に見て同一人の可能性が極めて高いと判断するのが妥当であるとの鑑定結果を得た(平成16年8月7日)ことは本件藤田申立事件の申立書に述べたとおりである(申立書3頁)。

 一方、申立人らは、平成16年8月2日政府に真相解明を要請するとともに、当該写真を政府当局に提供した。

 しかし、本件人権救済申立時点で、政府当局からは藤田進氏の所在確認はおろか写真についての評価すら家族には伝えられていなかった。

(2) ところが、申立人藤田隆司は、平成24年12月18日、埼玉県武南警察署に呼び出しを受け、埼玉県警本部警備部外事課課長補佐渡辺英之氏及び同県警本部警備部外事課関口正美氏より、①警察庁・科学警察研究所による平成16年8月11日付鑑定書 ②埼玉県警による平成16年10月4日付鑑定書   ③平成17年5月10日付写真の合成・加工の有無に関する鑑定書の三点があることを告げられ、本件写真について、①の鑑定の結論は「同一人物と考えられる」、②の鑑定の結論は「同一人物と推定される」、③の鑑定の結論は「合成・加工の痕跡は認められない。写真の印画紙はベルギーのアグファ製である」旨、口頭による説明を受けた。説明の状況は、鑑定書の結論のところだけを示して、こう書いていますというものであった(以上3点の鑑定を総称して「警察鑑定書」という。なお、後日、同氏らに鑑定の対象の写真について質したところ、①の写真はTBSが入手した写真〈本件写真1〉、②の写真はテレビ朝日が入手した写真〈本件写真2〉で、③の鑑定は①、②の鑑定におけるそれぞれの写真についてのものである、②の鑑定は最終的には科学警察研究所で鑑定しているということであった)。

 警察当局は、本件写真が報道機関にもたらされて間もなく鑑定を行い、いずれも写真の人物が藤田進氏と同一人と考えられること、同写真は合成などされたものではないなど重要な鑑定結果を得ていたものである。藤田進氏に係わる極めて重大な事実を8年余の間公表もせず、藤田隆司氏ら家族にすら明らかにしてこなかったものである。

2 警察鑑定書その他の情報等について
   ―告発による捜査、警察当局の動き等に関連して―

(1) 2004年(平成16年)8月2日、特定失踪問題調査会と藤田進氏ら行方不明の家族らは内閣府を訪れ、藤田進さんを含む32人の行方不明者について、これまでの調査から北朝鮮に拉致された可能性が高いとして政府に詳しい調査をするよう申し入れ、今後予定されている日本と北朝鮮の実務者協議でも安否を確認するよう求めた。申し入れを終えた藤田隆司さんが進さんの写真にもふれた話をしたことについて、警察庁は「今の段階で藤田さんが北朝鮮に拉致されたと判断するに至っていない。今後北朝鮮で撮影されたとする藤田さんによく似た男性の写真の入手経路などについて、関係者から事情を聞いて必要な捜査を進めたい」と述べた(別添資料9)。

 そして、2004年(平成16年)8月27日のNHKの報道によれば、「先月初め特定失踪問題調査会に持ち込まれた藤田進さんによく似た男性の写真について、日本政府もこの写真の入手経路などについて調査を進めてきた。そして、先週、韓国のソウルで日本政府の関係者が、写真を持っていた北朝鮮出身者の人物に直接会い、詳細に事情を聞いていたことが明らかになった。その中で、この人物は、▽写真は北朝鮮から脱出した別の男性から受け取ったもので、その際この男性から『藤田進』という名前をはっきり聞いたと述べたほか、▽写真の男性が1970年後半に日本から拉致され、▽その後、ピョンヤン市内にある北朝鮮の工作機関で日本語の教官として働いていたという話を聞いた、と証言したということです。さらに、▽写真の男性は少なくとも数年前の時点では生存していたもようだとも伝えられたということで、日本政府では、さらに調査を進め、写真の男性が藤田さんかどうかについて確認を急ぐことにしています」とされている(別添資料10)。

(2) 申立人藤田隆司と春之助は、平成16年9月28日、被疑者不詳・国外移送目的略取誘拐罪で埼玉県県警本部に告発した。そして、警察当局は同被疑事件において平成16年10月29日写真を、平成17年3月11日アルバム、ノート、手帳、学生服、膝掛け等所持品17点を押収し(本件藤田申立事件資料7,資料8)、学生服と膝掛けに付着する髪の毛を採取し、隆司と春之助の口腔内の粘膜を採取した(本件人権救済事件における第1回照会に対する申立人の回答書)。

(3) 以上の経緯からすると、藤田進氏に関する情報として、政府並びに警察当局は、本件警察鑑定書だけでなく、その写真を持っていた人物からその入手経路のみならず、写真を受け取った別の男性による写真の人物の素性等の詳細な証言を得ており、さらにはDNA鑑定のための父及び弟の口腔内の粘膜の採取にまで捜査を進めている。

 警察鑑定書の作成日付けからすると、そのうちの①の鑑定書は上記NHKの報道前には既に作成済みで、政府関係者が韓国のソウルで写真の人物について調査に入る前には鑑定がなされているものである。

3 政府及び警察当局の対応について

(1) 上記のとおり、政府並びに警察当局は、韓国のソウルまで調査に及び、写真を持っていた人物に直接会って詳細な聞き取り調査を行い、そして人物の同一性のみならず写真の真贋性の鑑定にまで及び、またDNA鑑定のためと思われる髪の毛や父と弟の口腔内の粘膜の採取など本件藤田進失踪事件の捜査上極めて重要な証拠の収集を行っている。

 しかし、政府ならびに警察当局は、藤田進氏の所在等も含め捜査の進展状況、その他藤田進氏に関する情報は申立人藤田隆司らには一貫して伝えてこなかった。本件警察鑑定書の説明の際にも鑑定結果を伝達するのみで、その他何らの情報の開示もなされていない。

(2) ところで、平成16年1月29日申立人16名で行った人権救済申立事件の調査において、貴連合会からの平成16年12月16日付内閣総理大臣、外務大臣及び警察庁長官宛の平成16年12月16日付照会に対し、平成17年1月5日付内閣官房拉致被害者・家族会支援室長の回答は、「本件被害者16名の北朝鮮当局による拉致された可能性に関する現時点の判断の状況については『個別的具体的な事案』であり、『捜査を含めた今後の政府の取り組みに与える影響に鑑み回答を差し控え』たい」、同じく同日付警察庁警備局外事情報部外事課長よりの回答も、「本件被害者16名について、現在、関係警察において捜査中であるが、『具体的な捜査の内容については、捜査上の秘密の保持や、個人のプライバシーの保護の観点から』その回答を差し控える」とし、その上で「本件被害者16名の事案に関し、『被害者の所在が不明であり、事案発生の時点で目撃者もおらず、証拠もほとんど残されていない』など『いずれの事案についても厳しい諸事情が存在する』ことを指摘しつつ、関係警察において、速やかに捜査を遂行すべく努めている」とのことであった(同申立事件における調査報告書4〜5頁)。

 もしも、政府及び検察当局が、いまだにかかる認識のもとで藤田進氏についても情報開示を拒んでいるとすればその姿勢は批判のそしりを免れない。

 藤田進氏に関しては、上記のとおり重要かつ多くの証拠関係が既に収集されており「厳しい諸事情」は最早取り除かれているものと言える。藤田進氏に関する情報を開示できないというのであれば政府自らがその理由を具体的に説明しなければならない。

 2004年(平成16年)に報道機関が入手した写真が、専門家そして警察による鑑定がなされ、その他政府自らの情報収集がなされたことが公になっており、さらには、本件藤田申立事件の申立ての理由において述べた数々の根拠が存在する。にもかかわらず藤田隆司らにはことの真相が伝わってこない。31年間藤田進氏の安否を待ち続けている申立人らがその情報を知る権利は最大限尊重されなければならない。藤田進氏に関する情報の開示は、もはや捜査上の秘密の保持とか、個人のプライバシーの問題の域を超えている。

 それでもなお、申立人らの要請に答えずこれを放置するようなことであれば、そのこと自体が国民に対する人権侵害に当たるものであるとの批判を政府自らが受けなければならない。

 警察当局は、藤田進氏に関する捜査・調査の内容を至急に明らかにし、日本政府は、北朝鮮に対し藤田進氏の所在確認と身柄の返還などを強く求め、一日も早く家族と再会が果たせるよう努める責務がある。

4 最後に

 もとより本件藤田申立事件のみならず、他の本件人権救済事件の申立て事件においても同様、それぞれの事件において独自の目撃証言や関係証拠をもとに拉致の疑いが極めて強いものであることを申し述べている。それぞれの主張を真摯に受け止め、捜査の全容を明らかにし、国民の人権の保持に徹する対応を取られることを日本政府並びに関係機関に強く求めるものである。

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