陸軍中野学校
【調査会NEWS1506】(26.3.24)
ある程度の年齢の方でないとご存じないかも知れませんが、大映映画に「陸軍中野学校」シリーズがあります。
主役は市川雷蔵で『陸軍中野学校』・『陸軍中野学校 雲一号指令』・『陸軍中野学校 竜三号指令』『陸軍中野学校 密命』・『陸軍中野学校 開戦前夜』と、昭和41年から43年にかけて4本の作品が作られました。旧陸軍の情報要員養成学校である中野学校を題材に、主役の椎名次郎中尉が敵のスパイと大陸や日本国内で渡り合うという内容です。
なかなか見応えのある映画なのですが、これを特に高く評価したのは映画好きの金正日でした。単に観ただけではなく、工作機関でもこの映画を教材として使わせたそうです。元工作員の安明進氏は金正日政治軍事大学でこの映画のシーンをスライド教材に使って授業を受けたと言っていましたし、曽我ひとみさんは北朝鮮の招待所でこの映画を観たと話しています。北朝鮮の映画で有名なものに「名もなき英雄たち」というスパイ映画のシリーズがありますが、これもおそらく「陸軍中野学校」の影響を受けて制作されたものと思います。
また、「金正日の料理人」、藤本健二氏の著書の中には金正日と射撃場に行ったとき、見事命中すると金正日が「ナカノヤー」と言ったという話が出てきます。おそらく金正日はこの映画をみて「わが国の工作員もこれだけの能力を持たなければならない」と思ったのでしょう。
実際、この映画を観ていると、背乗りとか病院を拠点にした拉致なども出てきます。映画を地でやったのではないかという感じですが、逆に言えばこの映画から北朝鮮の工作活動もある程度推測できます。そうやって拉致を成功させた工作員に金正日は「ナカノヤー」と声をかけたのかも知れません。
北朝鮮の情報機関立ち上げのときに中野学校出身者が関わっていたという話もありますから、それが事実なら映画の前からそのノウハウが使われていた可能性もあります。陸軍中野学校は戦後各国の情報機関から高く評価されていますから、金正日の目の付け所もそう悪くはなかったのかも知れません。
問題は、お手本になった方のわが国が、警察であれ公安調査庁であれ海保であれ自衛隊であれ、優秀な人間は沢山いるのに情報戦ではやられっぱなしということです。「日本版CIAがないから」などという制度的なことではなく、これは何十年もの間、指導層に国家を担う覚悟が欠けていたのが最大の理由ではないでしょうか。なんとか巻き返して、金正日が生きていたら「ナカノヤー」と断末魔の悲鳴を上げる位のことをやらなければならないと思います。
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