やまと新聞 山本美保さんDNAデータ偽装事件と拉致の闇(1)
以下はインターネットの「やまと新聞」に1月18日付で掲載されたものです。編集部の許可を得て転載します。
山本美保さんDNAデータ偽装事件と拉致の闇(1)
この事件についてはご存じの方もおられると思います。要は拉致の疑いの濃い失踪者を身元不明遺体と結びつけ、拉致問題の沈静化を図ろうとした事件です。誰が?北朝鮮ではありません。日本政府がです。
突然の失踪、小泉訪朝で「拉致の疑い」
昭和59年(1984)6月4日、山梨県甲府市に住む山本美保さん(当時20歳)は「図書館に行ってくる」とお母さんに告げてミニバイクで出かけたまま行方が分からなくなりました。バイクは2日後、甲府駅前で発見されましたが本人の足取りは分かりませんでした。
同年6月8日、新潟県の柏崎警察署から美保さんの家に電話がかかりました。柏崎市の荒浜海岸で美保さんのセカンドバックが発見されたという内容でした。家族は直ぐに柏崎に向かいましたが何の消息もありませんでした。その後自宅には何度か不審な電話がかかってきましたが、本人につながる情報は全く出てきませんでした。
平成14年(2002)の小泉訪朝で北朝鮮が拉致を認め5人が帰国、その中に政府の認めていなかった拉致被害者がいたことから家族は「北朝鮮による拉致ではないか」と考えるようになります。当時私は救う会事務局長でしたが、山本美保さんの双子の妹、森本美砂さんから5人の泊まっている赤坂プリンスホテルの従業員を装って5人に近づきたい、双子だから姉を知っていれば何か反応があるはずだからと頼まれたことがあります。当時は5人の扱いが極めてデリケートだったためご遠慮いただいたのですが。
翌年1月、特定失踪者問題調査会が設立されると山本美保さんは特定失踪者第1次リスト40名の1人として発表されました。このときは日本中関心が極めて高く、NHKは特別番組を組んで私が40人の氏名や失踪状況を読み上げるのを生中継で全国放送しました。それでも山本美保さんの消息につながる情報は全く出てきませんでした。
一方地元の甲府では高校時代の同級生らが中心になって山梨県全体、さらに他県にも広がる署名運動が始まりました。甲府市の人口を上回る署名が集まり、街中には「特定失踪者全員の解決がなされなければ、拉致問題は終わらない」というポスターや幟などが目につくようになりました。当時特定失踪者支援の運動としては全国でもトップの運動と言えました。
お父さんの死と突然の県警発表
そんななかで平成15年(2003)5月、お父さんの光男さんが脳腫瘍で急逝します。お父さんは元山梨県警の警察官で、美保さん失踪当時も柏崎に駆けつけ、また身元不明遺体なども調べていました。そのお父さんが入院している途中、森本美砂さんは「今後の捜査のため」という理由で県警の警備1課担当者からDNA鑑定の試料として血液を採取されています。
そして翌平成16年(2004)3月4日、警備1課の担当者から突然、「山形の海岸で見つかった身元不明遺体と美砂さんの血液をDNA鑑定したところ一致した。明日名古屋大に鑑定結果を取りに行く」との電話がかかります。それまで山形の遺体とのDNA鑑定など全く聞いていなかった家族は驚きます。私もこの日の夜美砂さんから電話を受け愕然としました。
明くる3月5日、山梨県警は丸山潤・警備1課長が記者会見をし、山形県遊佐町の海岸で昭和59年(1984)6月21日、つまり美保さん失踪から17日後に発見された身元不明の漂着遺体の骨髄のDNAと、森本美砂さんの血液のDNAが完全に一致したと発表しました。ちなみに丸山課長は県警のたたき上げではなく、このポストとしては珍しい警察庁から派遣されたキャリアでした。発表には「自殺の可能性がある」と書かれており(その根拠は全く示されていませんでしたが)、これを境に世論は一気に冷却化していきます。「なんだ、拉致と言っていたけれど、自殺だったんじゃないか」ということです。
私たちにとっても、やがて救出して会えると思っていた人が失踪直後に亡くなっていたというのはショックでした。私は3月6日に甲府に行き美砂さんや支援者の方々と今後の対応を議論しましたが、その途中美砂さんは突然倒れてしまいました。
次から次へと湧く疑問
ところがその後、様々な矛盾が出てきたのです。美保さんのデータと遺体のデータが全く合わない。ジーパンや下着など、遺体の遺留品も美保さんが使っているものとは全く違いました。このビラを見ていただければ一目瞭然でしょう。山形の遺体が美保さんならDNA以外も一致するはずです。なぜなのかと思い始めました。そして、この問題が実は拉致問題の本質に関わる、とてつもなく奥の深い問題であることに気付くのです。それについては次回に書きますが、ご関心のある方は以下をご参照いただければ幸いです。
荒木著『山本美保さん失踪事件の謎を追う』(草思社・平成24年)
YouTube アニメ『真実は一つ』(各約10分)
第1部
第2部
第3部
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