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2019年6月13日

国際講座ご質問へのコメント

 さる6月8日の拓殖大学海外事情研究所の国際講座「暴走する南北朝鮮、日本のとるべき道は? 」に参加いただいた皆様ありがとうございました。当日いただいたご質問に全てお答えできなかったので、ここに掲示しておきます。多少ともご参考になれば幸いです。今後とも国際講座へのご参加をよろしくお願い申しあげます。なお、コメントは一部複数の質問をまとめたり内容を直しています。

 

●「国家」と「民族」のブレ・独立の正統性について、韓国において解放への自主性が確立されていないのが原因の一つではないか。3.1運動への金一族の関与を捏造した「神話」によりネイションビルディングのプロパガンダが徹底した北は「国家」の維持が目的であり、「民族」はその手段としての考えが成立しているのではないか。

 1970年代に朴正煕大統領と対峙した反体制派のクリスチャン咸錫憲は「解放は盗人のようにやってきた」と言っています。おっしゃるように自力で得た独立でないことが南北双方に様々な影響をもたらしていると思います。また北朝鮮及びそれに同調する勢力が「民族」を強調するのは明らかに日米と韓国の間を裂こうとするものですが、保守派も含めて「民族」という響きにコリアンが弱いのも事実です。これは日本以上に単一性が高いためかも知れません。

 

●将来的に北朝鮮の金正恩体制が崩壊するとしたらどのような形で崩壊するのか。南北統一の可能性とその兆しの計り方は?

 昔は金正恩の暗殺などによるトップの不在から権力機構が無力化し、南北の往来が始まることによってなし崩し的に統一になると考えていましたが、今の韓国の状態からするとそれも難しいような気がしています。想像のつかないような無秩序な統一になるのではないでしょうか。

 

●南北統一するとなると軍事力の強い北が優位になると思う。南の国民はそれを是とし、それでも南北統一を望んでいるのか。それとも南の国民は金正恩を認めているのか。

 現時点では確かに韓国の政権は北朝鮮の出先のようなものなので、このまま二つの政府が維持された状態で統一すれば北朝鮮優位になるとは思います。しかしまずそうなるかという問題があります。韓国の国民の大多数は建前はともかく本音では統一したいとは思っていません。ただ北朝鮮と戦争になったり緊張関係を維持するのは嫌だということでしょう。

 

●予備役ブルーリボンの会の意見広告が産経に出ていたが私も同感である。北朝鮮と戦うのではなくても自衛隊を活用できる場はあるはずだ。このような意識を特に国会議員に強く持っていただきたい。

 ご関心があれば6月29日に同じ拓殖大学で予備役ブルーリボンの会のシンポジウムがありますのでぜひご参加ください。

 

●以前特定失踪者問題調査会のニュースで読んだが脱北帰国者が日本で「特急で2時間なら自転車で4時間あれば行けると思っていた」という話があったが、北朝鮮の鉄道事情はどうなっているのか。

 すでに時刻表はあってなきがごときで、電気が来たら走る、という状態だそうです。

 

●北朝鮮の方が韓国より発展していた時期があったと聞いたことがあるが、その理由は何か。

 答えは簡単です。日本時代の工業インフラが北朝鮮に集中していたからです。南、つまり今の韓国は平地が多いのを利用して農業地帯でした。当時「北工南農」と言いました。

 

●韓国の「386世代(60年代生まれ、80年代に大学生活を送った世代)」は親北朝鮮、反米反日なのか。

 日本の全共闘世代のようなもので全体的にはその傾向が強いと思います。

 

●韓国の大統領はなぜ汚職事件で失脚したり逮捕される人が多いのか。何が問題なのか。「民族の気質」というような根本的な原因があるのか。そうなる可能性を知りながら、どうして立候補するのか。

 韓国は大統領権限の極めて強い国で、大統領を取るかどうかでオールオアナッシングになってしまうとすら言えます。これは李朝時代から中央集権制が続いてきたことにも影響されているでしょう。しかも大統領は任期5年で1回だけしかできないので、ある意味「選挙で選ばれる期限付きの王様」と言えます。そのため特に政権初期に様々な利権などが、頼まなくても飛び込んできます。「王様」の周りの人間は任期中にそれを享受しようとします。そうすると末期になればそれが暴かれるということなのですが、おそらく出馬する人は「王様」という地位に目を奪われて終わった後のことは見えなくなるのでしょう。「自分だけは違う」と思ってしまうのかもしれません。

 

●反日を強めると支持が高くなるというメカニズムが理解できない。

 コンプレックスの裏返しもあり韓国人は「日本に勝った」ということに生理的快感を覚えます。しかもかつては韓国が騒ぐと日本が謝り、うまくいけば何か出してくるということがありました。ただ、これが今後も効くとは限らないと思いますが。

 

●北朝鮮の地下資源大国説に疑問である。レアメタルの埋蔵はかなりあると思うがなぜこのような説が流布しているのか。

 これは国際講座の折もコメントしましたが、一定の資源はあると思います。大国と言えるかどうかは私には専門外で分かりません。ただ、いずれにしても今の北朝鮮の技術では採掘や精錬は限定的な範囲しかできないでしょう。

 

●現在の韓国軍の内情はだいぶ骨抜きにされてしまったと聞いたがどうなっているのか。親文在寅なのか反文在寅なのか。軍の上層部は文在寅大統領が任命しているのだろうが中堅の軍人はどう考えているのか。

 韓国は良くも悪くもシビリアンコントロールが効いた国で、政権の意向に軍も相当左右されます。もちろん不満を持っている軍人は多いでしょうが、現時点で政権の意向に背くことはできないと思います。

 

●北朝鮮ではあれだけ自分の肉親・友人・知人が殺されているのにどうして暗殺などで排除されないのか。クーデターが起きる可能性はないのか。

 今までも何度か金正恩の暗殺未遂はあったと言われています。これからも可能性はあります。ただ、北朝鮮でうまくいかない理由は一つには徹底した密告社会であり、かつ家族連座制があるため組織的な犯行がきわめて難しいということ、もう一つは李朝から日本統治、ソ連の占領とさらに続くソ連軍大尉金日成の指導者就任、その息子金正日及び孫金正恩の統治と、国民の手で政権を変えられるというイメージが北朝鮮の人々にないことが理由だと思います。

 

●米韓関係は今後どうなるのか。米国は在韓米軍を撤退させるのか。米韓同盟は消滅するのか。

 もともと米国は朝鮮半島から退きたいと思ってきました。現在の反米文在寅政権はその意味で非常に都合が良いと思います。「出て行け」と言われて出て行くのが一番やりやすいからです。また米軍は「トリップワイヤー」の役割を果たしていました。北朝鮮が侵攻して韓国が攻められれば一緒に被害を受ける在韓米軍は自動的に介入することになる。それが抑止力になっていたのです。しかし韓国にいなければ逆に人質がいなくなることにもなるので必要なときに北朝鮮に対して攻撃しやすくなります。いずれにしても米国はすでに韓国を同盟国であるとは認識していないはずです。

 

●拉致被害者を戻せ返せと言わないで、北朝鮮と完全に関係を切ってしまうというのはどうなのか。そうすれば北朝鮮の方から支援欲しさに返してくるのではないか。

 もっと毅然とした態度は必要だと思います。ただ関係を切るのはこの近さでは物理的に難しいと思います。

 

●終戦後朝鮮に残してきた日本人の個人資産は今の貨幣価値で72兆円とも言われているが、これを請求したらどうか。

 最後はそういうことも選択肢としてあるはずで、そちらが請求するならこちらも請求すると、相手にそれをちらつかせるのは一つの手段だと思いますが、それはつまり日韓条約を日本側も無効だと言うことになります。現実に行うのは難しいでしょう。

 

●韓国は米国同様国民の二極分化(保革対立)が進んでいるようだ。以前は地域対立が深刻だったが、今では地域内対立よりむしろ世代間対立(高齢者=反共・親米、若年者=反米)が深刻なのか。

 私もそう思います。現在は思想的対立が世代間対立とリンクしています。ただ、反米は若者というより「386世代」のような中年層に多く、若年層はまた違った反応をしています。この辺りの変化は詳しく研究されたいのであれば政経学部梅田皓士講師の『分裂の韓国政治―政治的エリートによる政治的亀裂の形成』(志学社)をお読みいただければ幸いです。

 

●金正恩の息子金ハンソルを救援した「臨時政府」をどう評価するか。今後金正恩政権を揺るがす勢力となるか。

 まだどこまでの勢力かは分かりませんが、外国政府が支援しているとも言われます。状況によっては一気に脚光をあびるかもしれません。

 

●現在海外留学生の日本での生活支援ボランタリーをしているが、最近韓国からの留学生が減っている感じがすると仲間が言っている。底流に変化があるのか。

 どうでしょうか。その分野のことを詳しく知らないので何とも言えませんが、韓国からの留学生が他国と比べてどうかを見る必要があると思います。観光客は増えているので、日本に対する関心が特に低下しているとは思えないのですが。

 

●竹島問題は現在どうなっているのか。

 残念ながらどうにもなっていません。韓国のストレス解消の道具みたいなものです。

 

●韓国ではキリスト教徒が多いというが国民の何パーセントくらいか。

 カトリックとプロテスタント合わせて人口の4分の1と言われています。

 

●韓国の教育では日本のことをどう書いているのか。悪く書かれていたら韓国人が皆工作員に見えてしまうのだが。

 韓国では憲法上でも日本時代に中国にできた大韓民国臨時政府がルーツということになっており、日本に抵抗したのがアイデンティティですから、当然特に戦前については日本のことを悪く書いています。しかし教育がどうであれアニメとか音楽などを通して日本に関心を持つ若い層も多く、さらに現実の日本に来て教育のままに思い続けることは簡単ではありません。少なくとも工作員の役割はできないでしょう。

 

●イージス・アショアの導入は対北抑止力としてどれだけのインパクトを与え得るのか。

 私はイージス・アショアには否定的です。まあ塀がそこらじゅう穴だらけの家が門のところだけ高価なセキュリティシステムを取り付けるようなものだと思います。

 

●金正恩の言動等は自らの判断というより側近の知恵者に操られているように思うがどうか。

 分かりませんが、本人の性格からして継続して信頼できる側近がいるとは考えにくいです。張成沢などは金正日が任せた金正恩の後見人で、文字通り「側近の知恵者」だったのですが殺されてしまいました。

 

●北朝鮮の国民は全てが金正恩が現れると大拍手で迎えるが、私には演技にしか見えない。もし金正恩がクーデター等で殺されたら北朝鮮の国民は大歓迎の拍手をするのではないか。

 はい。おそらく突然変わると思います。あの大きな鳴り止まない拍手は、最初にやめた人間が後で処罰されるからやめられないのだと言われています。

 

●国際政治を考える上で単細胞的思考では通用しないのは承知しているが、日本が韓国と国交断絶したら困ることはあるのか。

 国交断絶しても日本がハワイの隣に引っ越すとか、朝鮮半島がイタリアの横にでも行ってもらうことができない限り、隣国であるという現実は変わりません。実際昭和40年(1965)までは日本と韓国は国交がありませんでした。そしてその間にいわゆる李承晩ラインでの日本漁船の拿捕や銃撃が行われました。いずれにしても、朝鮮半島の国家が面倒くさい相手であることはおそらく未来永劫変わらず、その状況にどうつきあっていくかということではないでしょうか。

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