第3次朝鮮スパイ事件(日本における外事事件の歴史3)【調査会NEWS3398】(R03.2.13)
昭和30(1955)年6月下旬、新潟県の新潟港から出港を目前にした漁船(20トン)と乗組員数名が警視庁公安部と海上保安庁によって「船員法」違反で検挙されました。これが当時「戦後最大のスパイ事件」と称されたいわゆる「第3次朝鮮スパイ事件」発覚の幕開けでした。
この事件は、朝鮮戦争(1950.6.25開戦、1953.7.27休戦)の最中に北朝鮮の内務省直轄の工作員養成所で工作員としての教育を受けた韓載徳が日本の(1)再軍備、(2)北鮮に対する基本的政策、(3)在日朝鮮人に対する政府の方針、(4)日米関係、(5)日韓関係、(6)駐日韓国代表部の陣容などに関する情報の収集と、(1)日鮮貿易の促進工作、(2)日鮮親善の政治工作などを命じられ昭和28(1953)年に日本密入国後、各種の工作活動を行っていたものです。
当時の報道で主犯格とされた韓載徳は朝鮮平安南道(現在の北朝鮮)出身で、昭和3(1928)年に来日し、早稲田第一高等学院に入学しましたが、朝鮮プロレタリア芸術同盟(大正14・1925年に朝鮮で設立された朝鮮の社会主義団体で日本と中国に支部があった)に入り、左翼活動を行って検挙され本国に強制送還された人物で朝鮮に送り返された後、昭和6(1931)年に釈放され「京城日報」、「平壌毎日」などの記者を経て終戦後は北朝鮮の前身である「平安南道建国準備委員会」の宣伝部長を務めた後、平安南道臨時政府機関紙の編集局長、民主新聞主筆代理などを務め昭和24(1948)年から「朝鮮中央通信」の経済部長に就任していました。
韓は昭和28(1953)年2月に北鮮政府の幹部会から「アジア諸国を対象とする貿易会社を作るがこれは内務省の機関で諜報も担当する。お前は日本事情に詳しいからその調査をやれ」と指令を受け、日本の新聞、雑誌などで日本事情を研究、無電技術、暗号解読などの教育を約2ヶ月間受け、日本に密航する組員としてNとTの2名が加わりました。Nは京城(現在のソウル)出身の鉄道員でしたが、無電技士としての工作員教育を受けた人物で、Tは済州島出身で子供のころに日本に渡り、鮮魚の運搬を生業としていた人物とされています。
昭和28(1953)年8月、韓・N・Tの3人は、米貨5000ドルと無電機4台を携行し、Tの持ち船で上海を出港、長崎県の富津港に密入国を果たします。密入国後、韓とNは下関で「国際新聞社下関支局記者」と名乗って身分証明書を偽造、下関の旅館やTの知人宅に寝泊まりしながら時々上京しては活動拠点の選定などを行った後、昭和29(1954)年1月、韓が上京、続いてNも上京します。
この間Tは米貨5000ドルを日本円180万円(現在の貨幣価値に換算して約3,600万円~4,500万円)に換金、韓とNの「外国人登録証」の入手などに動きましたが「外国人登録証」の入手は叶かなわず、韓とNの上京直前、Tは韓の報告書を持って再び北朝鮮に向かいました。
一方、上京した韓は、学生時代の在日知人を訪ね「北鮮がいやになったので日本に来た」と騙して知人の経営する〇〇商会に勤め、これを足がかりに知人が日本の財政界に持つ人脈などを利用して工作活動を進めていました。同じく上京したNは、無電機を預けた協力者で工場経営者の某女宅に潜伏しますが、某女と仲良くなってしまい、任務が嫌になったのか、韓が本国に送る報告文などの送信をしなかったり、本国からの無電呼び出しにも応じなくなっていました。
そこで北朝鮮側は活動のテコ入れをするため、新たな工作員たちを日本に送ることにして昭和29(1954)年9月、Tの持ち船でS他5名の工作員と追加の工作資金として110万円(現在の貨幣価値で2,200万円~2,750万円)の日本円、米ドル2,500ドル、ソ連製サントニン5缶、計10ポンド、無電機の部品などを持たせ、島根県下の港から密入国させました。
Sは持参した米ドル・2,500ドルを約100万円(現在の貨幣価値で2,200万円~2,500万円)に換金、ソ連製サントニン10ポンドは、あの西荒井病院院長の金萬有(当時40~41歳)と義妹で薬局経営者のH女に約35万円(現在の貨幣価値で700万円~875万円)で売却し、工作資金を作りました。
韓と後発の工作員Sは、大阪で落ち合って事後の活動について検討した結果、韓は(1)日朝親善のための政治工作 (2)日朝貿易についての調査と貿易の促進 (3)日米の政治情勢の分析 (4)在日朝鮮人の動向 (5)南鮮の情勢について、Sは(1)韓国空軍の寝返り工作 (2)韓国軍の兵力、装備 (3)在韓米軍についての情報 (4)日本人の政府、アメリカへの感情 (5)日本再軍備の現状などを担当することになり、それぞれが活動を開始します。
韓たちは昼間は拠点で日本の新聞、出版物などの情勢分析を行いながら、夜は各界の要人との接近工作を行いその成果は着々と功を奏し、貿易については韓の知人と協力して貿易株式会社をつくり、また民間漁業仮契協定を結び、昭和30(1955)年3月には通産省から北鮮貿易についての許可をとり、大阪の某商会の社長らを巻き込んで5月に広島で「富栄丸」(20トン)を200万円で購入します。
韓とSは、昭和30(1955)年6月、富栄丸を鳥取、福井を経由して新潟港まで運び本国への報告もかねて新潟からの出国を企てますが、実は警視庁公安部は約1年半ほど前から韓たちの工作活動を監視下に置いていたようで「韓たちが6月24日夜に富栄丸で出国する」との情報を得て、当初は出港したところを海上で海保の協力を得て摘発する予定でしたが天候不順などの影響で出港が遅れため、26日に一斉検挙するに至りました。
富栄丸ではSや日本人名・Yを名乗る朝鮮人、日本人船長などが検挙され、韓は新潟港から少し離れた市内で検挙、また新潟市内の旅館ではTが、また都内ではTに船員手帳を貸し出したMとYに船員手帳を貸し出した日本人というように、警視庁公安部では韓やSなどの動向を相当詳しく把握していたことが伺われます。そして昭和31(1956)年6月までに総勢22名の検挙者となり当時では「戦後最大のスパイ事件」と称されることになります。
さて、韓やSが乗り込んで出港予定だった富栄丸ですが、韓たちの検挙後に徹底した船内捜索をした結果、船室下の竜骨とマストに穴があけられ、その中にハミガキのチューブが4本詰めてあるのが発見され、チューブには薄い上質の紙に小さな朝鮮語で資金の使途、日本の政治情勢、日韓関係などについてのかなり正確な情報の基に書かれた報告文書などがありました。また他に発見された書類の中には「視察人士名簿」とされるものがあり、その中には、「日鮮貿易促進につき協力を約束した人」として政財界の有力者20名の名前がずらりと書かれていました。
もちろんそこに名前が書かれていた人たちが韓らの工作活動に理解を示して協力を約束したのか、全く無関係に名前が書かれたものかはわかりませんが、現代でも名前を言えば「ああ、あの保守系の代議士さんですね?」という方の名前も書かれていたようです。また別の報告文書には「米軍が日本で韓国軍飛行兵への訓練を行っており、その飛行兵に対する寝返り工作が非常に有望であり、来年3月頃にはジェット機に乗って北朝鮮に寝返る工作が実現する」旨の内容が書かれていたそうですが、当時も現在も米軍が韓国軍の飛行兵を日本国内で訓練していたという事実は見当たらず、この報告文書も取り調べの中で工作員たちは「誰が書いたか、我々は知らない」と答えていたようで、誰かが日本国内での工作の成果を膨張させて報告しようとしていたのか、現代でもナゾのままです。
昭和30(1955)年9月7日付の報道記事では前日の9月6日に韓やSたち工作員グループの「資金補充役」として都内足立区の西荒井病院院長金萬有と義妹で薬局経営者のH女が検挙されたことにより警視庁公安部関係者が「日本国内の北鮮スパイ網の大掛かりのものはこれで一応絶滅したつもりだが、また新手の工作をしてくるだろう。」と一応の終息宣言とも受け取れる旨の発言をしています。
以上が第3次朝鮮スパイ事件の概要となります。なお、先程「あの」と書いた金萬有ですが、その後北朝鮮に巨額の寄付をした人物で平壌には彼の寄付で建てられた「金萬有病院」があります。北朝鮮を代表する総合病院の一つです。院長をしていた西新井病院もかつて北朝鮮による工作活動に使われた疑いが持たれています。
ちなみに金正日の大好きな映画「陸軍中野学校」の最後の作品「開戦前夜」には海軍の情報将校が病院に拉致される場面がありますが、埼玉県川口市から失踪した藤田進さんについてもこの病院に監禁されたという証言がありました。あるいは金萬有が第3次朝鮮スパイ事件で拘束されたままであれば藤田さんの拉致もなかったのかも知れません。
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