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2022年8月27日

レーダー照射事件に関する「月刊朝鮮」張源宰論文

 以下は韓国の総合月刊誌「月刊朝鮮」9月号に掲載された張源宰(チャン・ウォンジェ)・ベナTV代表の連載「張源宰の北朝鮮のぞきメガネ」の拙訳です。急いで訳したので多少間違いがあるかもしれませんが、大体こんなもんだというところでご理解下さい。誤訳の責任は私にあります。

脱北漁船員北送事件で再び注目される広開土大王事件

◎2018年12月20日「広開土大王」が救助して北送した木造船には金正恩の元山葛麻地区視察当時金正恩暗殺を企図した北朝鮮軍人たちが載っていたと言う噂
◎日本の言論は2020年すでに「広開土大王」事件と「金正恩暗殺未遂事件」を関連した可能性を提起していた
◎強制北送脱北漁民2人は金策市出身…集団殺人関連の噂なし

張源宰(ベナTV代表)

 2019年11月7日に起きた脱北漁民の北送問題が国際問題になっている。この問題は人類普遍の良心に反する事件である。人類普遍の良心に衝撃を与え、恐怖を与え、怒りをひき起こした事件である。何よりも、「迫害を受ける憂慮がある国に誰であれ返す事はできない」という国際法の大原則「強制送還禁止原則」に正面から背いている。国連人権理事会、国連人権代表、国連北朝鮮人権特別報告官がすべて憂慮を表している背景である。
 さらに深刻な問題は、当時大韓民国政府がこの事件について様々な内容を発表したが、事実でないことが次から次へと明らかになっていると言う点である。

集団殺人関連の噂なし

 文在寅政権はこの事件が起きた当時、彼らを北送した理由について次のように発表した。①彼らが16人を殺害した凶悪犯であるということ、②帰順の真正性がなかったという点、である。

 文在寅政権のこのような主張は2022年7月「自筆帰順意向書」の存在が明らかになり、頭を地面に付けて全身で北送を拒否する動画が公開されることによって説得力を失った。憲法第3条によれば2人は大韓民国の国民であり、したがって殺人犯かどうかは大韓民国の司法手続きに従って判明しなければならない。仮に彼らが殺人を犯したとしても、彼らには大韓民国で裁判を受ける権利があり、彼らを北送する法的根拠は国内法にも国際法にもないという意味である。さらに、彼らが殺人犯である証拠もない。何よりも、彼らが乗ってきた船から殺人の決定的証拠である血痕が出ていないのである。
 文在寅政権は彼らを1日調査しただけで慌てて北送した。船も特別なに調査や検査をせず、すぐに消毒して返した。2人が16人を船上で順番に呼んで殺したと言うが、筆者がこれを事実でない可能性が大きいと考える根拠がある。「噂」である。民間言論がない北朝鮮の特性上、新聞の社会面に載せるような情報は噂を通じて広くそして早く早く広まる。殺人事件や浮華事件(姦通事件)などは 黄海道沙里院で起きたことがその日のうちに清津、元山、会寧まで届くほどである。加害者、被害者被害者の身元や事件が起きた背景、家族の対応など事件をめぐるすべての話が口から口へと伝わるのである。
 北朝鮮の住民とたびたび通話をする金ギルソン記者(現YouTube「金ギルソンの平壌万事」運営)の取材によれば、強制北送された2人の青年は金策市出身である。しかし金策市にはもちろん咸鏡南道のどこにもこの事件に関連した噂は何も流れていないという。被害者が16人もいるのであれば、その家族の話でも出てこなければならないが、何の痕跡もないと言うのである。北朝鮮で殺人犯は無条件で死刑である。集団殺人は前例もなく、起きる可能性がほとんどないことである。だから「噂の情報学」で推測すれば文在寅政権が主張するような猟奇的殺人は起きないものと思われる。

「広開土大王」事件

 噂の話が出たので別の事件の話をしておこう。2018年12月20日に起きた「広開土大王」事件である。韓国では「日本海上哨戒機低空威嚇飛行事件」、日本では「レーダー照射事件」と呼ぶ。 竹島(原文は「独島」)の北東約100キロ付近の日本海(原文は「東海」)大和堆漁場で韓国漁船が北朝鮮所属と思われる漁船を発見して海洋警察(訳注・日本の海保に相当)に報告し、大韓民国政府は海洋警察所属の「三峰号」と海軍の「広開土大王」を派遣し救助作業をした。
 この過程で、当時日本の防衛省から韓国海軍が自国の海上自衛隊哨戒機に向かって攻撃をレーダー照射したという疑惑が提起された。大韓民国国防部は直ちに疑惑を否認した。「攻撃用レーダーを照射した」ということは敵対行為をしたという話であり、国内外的に「レーダー問題」は焦眉の関心事であった。大韓民国国防部と日本の防衛省は直ちに事態収拾のための会議を開いた。会議の席上で どのような話が行われたかについて両国の国民は神経をとがらせた。
 その渦中、この船はどのようになったのか、この船に誰が乗っていたのかは大衆の関心事から離れていった。2018年12月22日統一部は「遭難した北朝鮮漁船 からは生存者3人と死体1体が発見され、簡単な調査の後彼らを22日北朝鮮に引き渡した」と発表した。
 しかしこの発表は疑問点だらけだ。まず、枠組み自体の問題だ。第一艦隊の旗艦である「広開土大王」と5000トン級の警備救難艦「三峰号」が木造船1隻を「人道的に救助」するために同時に出動したのは異例の事件だ。
 2018年から2019年までの間、北朝鮮の漁船や漁船の一部あるいは遺体が日本の海岸に漂着した事例は実に100件を遙かに超える。北朝鮮の日本人拉致問題を研究する拓殖大学荒木和博教授が報道をまとめた資料だけ見てもそうである。コロナ感染拡大以後は北朝鮮当局の出漁禁止措置によって漂着事例が急減した。
 万一「広開土大王」と「三峰号」が「小さい木造船ただ1隻を人道的に救助」するために出動したのであれば他の船が漂流しているときはなぜ出動しなかったのか説明が必要だ。わが国の艦艇がどうして該当水域に早く到達することができたのかも疑問である。
 北朝鮮内部の噂によれば、「必死の脱出」を行ったこの船の搭乗者は現役の軍人である。金正恩が元山葛麻観光地区を現地指導する時暗殺を企図した兵士たちがいたという。暗殺は未遂に終わり、加担者全員が逮捕されたというが、このうちの4人が船で逃亡、日本に脱出しようとした。出港を確認した北朝鮮当局が文在寅政権に某種の要請をしたと見るのは無理な推測だろうか。

金正恩暗殺未遂事件?

 確実なFACTは海軍と海洋警察の同時出動を命令することができる誰かが指示をしたと言うこと、2つの艦艇の出動は異例であるということ、2つの艦艇が木造船を「救助」したということだ。適切な調査が行われたのか、生存者の帰順の意向は確認したのか、誰がいつどのような方式で生存者を返したのかについてはいまだに分からない。2018年12月20日拿捕後22日に送還したと言うことになれば、調査には絶対的に時間が不足している。調査自体がいいかげんなものであったと推測する理由である。
 事実、この問題は既に報道されたことがある。2020年9月22日付日本のインターネット媒体「現代ビジネス」に乗った河野克俊前自衛隊統合幕僚長と近藤大介「現代ビジネス」編集次長の対談がそうである。 この記事で近藤大介次長は「韓国政府関係者から得た情報」だとしてこのように語った。
 「金正恩が元山葛麻観光地区の現地指導をする時に現場にいた兵士の中で暗殺を企図した人々がいた。暗殺は未遂に終わり加担した人々は一網打尽にされたが、その中の4人が逃亡して船で日本に亡命しようとした。この事実を知った北朝鮮当局が南北合同事務所を通して捕まえろと要請し、文在寅政権はそれに応じた。
 事実、海軍と海洋警察両側に命令することができる権限を持っている期間は大統領官邸しかない。そしてその時文在寅政権はこの事件の関心をそらすためにレーダー照射事件として韓国の世論を反日の方向に誘導したという。
 脱北漁民強制北送事件が報道された後、李仁斉前議員も自らのFacebookに北海道内を時間を思い起こす言葉を乗せた。

2018年北送された3人は誰だったのか

 脱北漁民強制北送事件に戻る。強制北送後、半月も経たない2019年11月21日、当時金錬鉄統一部長官に「中央日報」記者が質問した。米国のロサンジェルスで開かれた懇談会の直後であった。
 「2人を北送しましたが、大統領の指示があったのですか、なかったのですか」
 金錬鉄長官は「当然報告し、大統領が報告を受けた事案」だと答えた。録音もし、記事も掲載された。政府組織法上このような決定は大統領の固有の権限である。
 「韓半島人権と統一のための弁護士会」会長を務める金テフン弁護士は「帰順の意向書まで書き、大韓民国に定着したいとする意思を確実に表明した人々を、北朝鮮に 行きたくないともがく人々を「強制送還禁止」という国際法の原則に反してまで北送したと言う事は本当に「天人共怒する」(天も人も共に怒るべき)犯罪」だと語った。
 「これは法以前の、生まれる前らわれわれ全てが持っている人間本来の良心の問題です。これ以上良心を 騙さないでください。北朝鮮に連れていかれた若者達を見て何か言葉が必要でしょうか。今も『凶悪犯だ。帰順の真正性がなかった』と言われる方々に私は聞きたいです。あなただったらそのように引っ張られていくのですか」
 2019年11月7日、当時金ユグン国家安保室第1次長(2019年2月から2020年7月在籍)が国会でスマホを見ている時、板門店の南北共同警備区域の中佐から「今日午後3時に北送します」と送った文字が記者のカメラに映った。国際社会が大騒ぎになった。多くの国内外の人々が送還に反対したが文在寅政権は強制北送を強行した。この報道がなければ脱北漁民2人の北送は静かに、隠密裏に行われただろう。だれも彼らの行方と真実を知る事はできなかったはずだ。
 だから問いたい。「広開土大王」事件があった2018年12月22日に北送した「生存者は3人」は誰だったのか。なぜ脱北し、どこに行こうとしたのか。彼らを「救助」するため大規模作戦に準ずる人力と装備が動員された理由は何なのか。彼らは誰の決定で、どのように北送されたのか。「強制送還禁止」の原則に反した事はなかったのか、真実を、誰が、なぜ、何の目的で隠しているのか。

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